脱炭素の次は「生態系維持」が経営目標になる 世界の新潮流「ネイチャーポジティブ」の衝撃
――自然生態系の保全は気候変動対策を支えるという考えは、ネイチャー・ベースト・ソリューション(自然に根差した解決、略してNbS)として、いまや流行り言葉になっている。
さきほどお話ししたように、NbSは「自然は私たちの問題解決の助けになる」という概念だ。自然を回復させ、自然を守り、自然に投資する、そのことが社会と自然の双方にとって良い状態を生む。この考え方でいくと、気候変動対策と生物多様性対策をともに進めればよいことになる。NbSは気候変動、生物多様性という2つの分野にかける橋ともいえる。
――2022年11月の国連気候変動枠組条約第27回締約国会議で、決定事項にNbSの重要性が盛り込まれたことも大きいのではないか。アメリカのホワイトハウスも「NbS促進のためのロードマップ」を発表している(下図参照)。
国連の気候変動枠組条約のもとで採択されたパリ協定により、各国は削減目標を自ら定めて示し、実現しなければならない。各国はそのツールとしてNbSを掲げることができる。また、気候変動対策に取り組むための投資は生物多様性対策にも使われていくことになる。
「ネイチャーポジティブ」という言葉も流行りだした
――最近、ネイチャーポジティブという用語をよく耳にする。環境行政の関係者だけでなく企業側からの発信も見られるが、これは何か。
ネイチャーポジティブという言葉は、NbSとは少し違って政治的な意味合いのある目標ともいえる。気候変動の分野で使われる「カーボン・ニュートラル(二酸化炭素の排出量と自然による、あるいは炭素を貯留するなどの方法による吸収量が事実上、等しくなる状態を表す)と同じように、生物多様性の喪失、生態系の劣化が止まり回復に向かう状態を表す言葉だ。
気候変動の分野では、大気中に二酸化炭素を排出する影響は地球上のどこで排出しても同じなので、二酸化炭素の量を「トン」という重さの単位を使って削減の目標や効果を表す。生物多様性の喪失や生態系の劣化については、計測して比較する方法がないが、今、研究が進んでいる。
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