脱炭素の次は「生態系維持」が経営目標になる 世界の新潮流「ネイチャーポジティブ」の衝撃
――つまり、生物多様性の喪失や回復を示す指標や方法はまだ研究途上にあるけれど、この言葉を使うことで目指す状態をイメージできるようになると。
その通り。取り組みの第一歩だ。
――気候変動の分野では、主要国の金融当局で構成される金融安定理事会が「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」を設立し、企業による自主開示の流れができた。各企業が、気候変動が自社の経営に及ぼすリスクと機会を把握し、事業計画や戦略に対策を盛り込み、開示する。その生物多様性版もできそうだと聞いている。
「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が発足し、機関投資家が生物多様性喪失へのリスクを考えて投資額を決められるよう、準備を進めている。
――欧州では、この4~5年、人々が生物多様性の喪失や自然生態系の崩壊について、地球規模のリスクと受け止めるようになっている。どんな背景があるのか。
自然の驚異(熱波、氷河湖決壊、水災害など)がきっかけだが、農業政策の変更により、人々が生物多様性の重要性に気づいたということがある。自然環境の回復に貢献した農家を支援する施策が行われるようになったが、それにより豊かな自然や花々があふれる景色を楽しめるようになったのだ。
一つ付け加えると、10年ほど前からミツバチの生息数が減っていることに懸念が高まった。ブンブンと飛ぶ姿が見られなくなると悲しい、ということもあるが、経済的損失が大きい。受粉媒介者であるミツバチがいなくなると、果物や野菜もなくなるということは子供でも知っている。
日本の政府や企業にできることは多い
――日本に期待することは何か。
日本は自然資源を輸入し、製品を世界中に輸出しており、生活水準はかなり高い国だ。世界をリードして解決策を提示してほしい。NbSを自国内で実践するだけでなく、助言や指導を行って他国を支援してほしいと思う。自然生態系への影響を測るための科学的な基礎やレッドリスト作りにも力を貸してほしい。
――自然に根差した解決策、NbSを促す役割を日本が担えると思う理由は何か。
日本には伝統的な知識、手段、そして(先進国としての)責任がある。日本人は、コミュニティを支えるために自然を使う方法を知っている。日本の「サトヤマ(里山)」は、NbSに似ている。日本では伝統的に社会が必要とするものを里山で賄う一方、自然に敬意を払いながら利用してきた、と私は理解している。この経験や理論的知識をぜひ、ほかの国と共有してほしいのだ。
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