もう1つ別の要因も考えられる。2022年前半までの高賃金は、コロナ後の政策対応などで強まった労働供給不足がもたらしていた側面が大きかったことである。昨年来のコロナ禍からの正常化とともに、移民流入も増えたことで、サービス業などで高賃金の抑制要因になっている可能性がありそうだ。
労働供給の要因が高賃金緩和の主因だと断定するのは難しい。だが、コロナ後の労働供給不足が賃金上昇を招いていたならば、2022年から続く労働供給の回復は、インフレと賃金のスパイラル的上昇への対応を迫られていたFRBにとっては、大きな安心材料になる。
今後、FRBは5月のFOMCで追加利上げを行ったとしても、同時に、銀行問題に配慮して引き締めの影響に慎重に対応する姿勢をみせる可能性がある。
先の「低失業率+高賃金の和らぎ」が併存してきた状況については評価が定まっていないとみられるが、高賃金が和らぐ兆しが前向きに取り上げられる可能性がある。
もし賃金インフレに対する懸念が和らげば、失業率が3%台の低水準のままであっても、「十分引き締め的な政策金利に達しつつある」と判断する可能性もありうる。これらが、6月以降のFOMCで利上げ見送りの判断材料になるのではないか。
FRB高官は、銀行破綻後も高インフレ抑制が最大の課題との見解を繰り返している。だが12日に発表された3月CPI(消費者物価指数)は事前予想どおりに落ち着き、インフレ警戒を強めるような数字とはならなかった。
現在の債券市場は、はやばやと「夏場からの早期利下げ」を織り込む展開にある。このハードルは高く、利下げの可能性は低いとしても、FRBによる「先を見据えた」政策姿勢の変化で、利上げ見送りは柔軟に判断されそうだ。
当面のアメリカ株式市場は、企業決算発表や銀行問題への懸念が残るため、依然として方向感が定まらないとみられる。だが今後想定されるFRBの政策姿勢の変化は、株価下落リスクを緩和する要因になるかもしれない。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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