条約に基づく同盟関係であっても「巻き込まれと見捨てられのジレンマ」の克服は容易ではない。習近平主席は今回の訪ロでプーチン大統領との「限界の無い」友情を選択したが、それでも中ロの間には利益の違いがあり、少なくとも相互防衛の義務を負う軍事同盟にはなっていない。習近平主席としては、中国に見捨てられたくないプーチン大統領を制御し、ビスマルクの言う「同盟の騎士(中)と馬(ロ)」の関係を構築する一方で、プーチン大統領の戦争に巻き込まれ欧米の制裁を受けることを避ける狙いだろう。
西側としてはこのような中ロ関係を等身大に評価し、例えば核兵器の不使用等の中国と共通する利益をテコに、中国を介してロシアを制御することも検討が必要である(Patricia M. Kim, “The Limits of the No-Limits Partnership“, Foreign Affairs, March/April 2023)。
インド太平洋に必要な同盟ウェブ(網)の強化
大西洋のNATO集団防衛体制と異なり、インド太平洋の安保体制(ハブ&スポーク)は、アメリカというハブと4本の二国間同盟というスポークの構成で、脆弱だ。二国間にはそれぞれ特性があり、ウォルトの「脅威均衡」の対象も一様ではないが、ロシアの侵略によって台湾海峡有事の現実味が増したことで、中国という脅威に対抗する動きは同調している。
日本は国家安全保障戦略を改定し、反撃力の保有を含む防衛力の抜本的強化に踏み出した。韓国の尹錫悦大統領は米韓同盟重視と日韓関係改善に舵を切り、フィリピンも新たに4カ所の軍事基地の使用権を米軍に認めた。また、AUKUS(豪英米軍事同盟)やQUAD(日米豪印戦略対話)など同盟を多国化する動きもある。しかし、台湾海峡有事においてアメリカと同盟国がどう連携するのかは未だ不透明である。
バイデン大統領はこれまで4度にわたって台湾防衛への軍事的なコミットメントを明言したが、その都度、大統領府は従来の戦略的曖昧政策に変更は無いとしている。アメリカをはじめどの同盟国も公式に外交関係のない台湾への軍事侵攻を抑止するためには、ウクライナの教訓を踏まえたアメリカの有言実行がハブとして不可欠である。同時にスポークの二国間関係(日韓、日比等)の連携と多国化を進めることが必要だ。インド太平洋地域の安定には、アメリカと相互の信頼に裏打ちされた同盟ウェブという柱が求められている。
(尾上 定正 シニアフェロー/地経学研究所 国際安全保障秩序グループ・グループ長、元空将)
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