2008年のNATO首脳会議はウクライナの「将来的な加盟を支持」したが、同国の政治体制(汚職体質)がNATOの基準を満たしていないという指摘やロシアを刺激したくないという加盟国の思惑で実現しなかった。2014年のクリミア「併合」以降は、ロシアと紛争状態にあるウクライナをNATOの集団防衛体制に入れることは事実上不可能であった。
2021年9月1日、バイデン大統領はゼレンスキー大統領との初の首脳会談で、「(アメリカは)ロシアの侵略に直面するウクライナの主権と領土保全にしっかりと関与し続ける」と表明したが、12月7日のプーチン大統領との会談後の会見では、アメリカの道義的・法的義務はNATO非加盟国のウクライナには及ばないとし、「アメリカが一方的に武力行使をして、ロシアがウクライナを侵略するのに立ち向かうという考えは、現時点ではない」と述べた。この発言がプーチン大統領の決断を後押ししたことは間違いないだろう。
核戦争のリスクがあるロシアとの直接対決は避けたいというアメリカの躊躇と優柔不断が抑止の破綻を招いたと言える。アメリカとNATOはロシアの侵攻を速やかに排除し、ウクライナの求める安全保障の確約について、NATO加盟か「キーウ安全保障盟約」か、何らかの回答を示す責任がある。また、インド太平洋地域の諸国は、この抑止に失敗した事実から教訓を学び、台湾有事に生かすことが重要だ。
問われる同盟の信頼性
中国やロシア、イラン、北朝鮮などがアメリカ主導で確立された秩序に挑戦する一方、アメリカの相対的な力が低下し、アメリカの行動自体が以前と比べて予測しにくくなる中で、同盟の信頼性をいかに高めるかは西側民主主義国の重要な共通課題だ。北欧2カ国はロシアの核脅威の抑止にはNATOの核の傘に入るしかないと判断したと考えられるが、ロシアはベラルーシへの戦術核配備で対抗している。
ウクライナでの核使用を阻止できるかどうかが、NATOの今後の核抑止の信頼性を左右しよう。そのためにはNATOが一体となってロシアと対峙する決意を見せる必要がある。バイデン大統領は早々に軍事介入を否定し、ロシアとの直接対決を避けているが、アフガニスタンからの一方的な撤退で失ったNATO主要国からの信頼を今こそウクライナで回復しなければならない。中国はアメリカの対応を注意深く分析し、アメリカの台湾防衛の本気度を計っている。
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