武田信玄が「信長包囲網」に賛同した説の真偽 信玄死後の中央の政治情勢はどう変わったか

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信長は浅井久政・長政親子に対して、「一方ならざる遺恨深重」「悉くもって討ち果たすの条、大慶」(毛利輝元宛の信長書状)と書状に記すように、深い恨みを抱いていた。

浅井長政の10歳になる嫡男を捜索して、関ヶ原で磔(はりつけ)にしたこと、朝倉義景の母や嫡男を殺害させたことも、信長の恨みとそれを晴らしたいという、情念が渦巻いていたからこそだろう。

長政の嫡男を処刑したことを『信長公記』も、「長年のご無念を晴らされた」と記している。

敬意ではなく、日頃の恨みを晴らす行為

また、かつて信長を鉄砲で狙撃して、逃走していた杉谷善住坊(生年不詳〜1573)も、近江国で捕縛された結果、体を土中に埋められ、首だけ出されて、その首を人に鋸(のこぎり)でひかせるという方法で処刑される。そのときも「日頃のお怒りを晴らされた」(同書)とある。

そうしたことを考えると、信長による敵将の首の箔濃は、敬意ではなく、首を見せ物にし、日頃の恨みを晴らす行為だったと捉えることができよう。

濱田 浩一郎 歴史学者、作家、評論家

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はまだ こういちろう / Koichiro Hamada

1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『あの名将たちの狂気の謎』(KADOKAWA)、『北条義時』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)など著書多数

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