名古屋市生まれのみっつんさんは25歳で上京後、文学座附属演劇研究所に所属していた。金融工学系研究員のリカルドさんとは、28歳のとき出会った。その後、リカルドさんがイギリスに転勤することになり、2011年、2人は結婚して東京からロンドンへ移住した。
みっつんさんはリカルドさんの「数学者としての冷静沈着で、頭脳明晰なところに惹かれた。性格が(僕とは)まったく違うんですよ」と言う。リカルドさんは、みっつんさんのどんどん新しいところに突っ込んでいくところを「dangerous sexy(危なっかしさが魅力的)」と表現する。
代理母出産で子どもが生まれてからは、リカルドさんの出身地スウェーデン・ルレオ市で暮らしている。
進んでいるスウェーデン
スウェーデンでは、とくに「平等」と「公平」が一番大切にされている。
1987年に同性愛が差別禁止法の対象になり、1995年には事実婚の導入、2003年には同性カップルが養子を迎えられるようになった。2005年には同性カップルにも人工授精と妊娠に関する補助金を得る権利が認められ、2009年から同性婚が婚姻法に含まれ、制度化された。住居や医療、相続などの制度において、家族として手続きができる。
みっつんさんとリカルドさんがどのように考えて代理母出産を選び、どんなふうに息子くんが生まれてきたかについては、2015年から「ふたりぱぱ」のブログで発信するようになった。そのあたりは、書籍『ふたりぱぱ ゲイカップル、代理母出産(サロガシー)の旅に出る』(現代書館)にも詳しい。ブログや書籍、動画に共感する人は、日常や社会の「当たり前」や「常識」に疑問を持つ人が多いそうだ。
みっつんさんは、そもそもゲイが子どもを育てるなんて考えてもいなかった。子育てをする自信もなかった。しかし、結婚した翌年、イギリス・ロンドンの国立テート・ブリテン(美術館)が主催したアートワークショップに参加したことで考えが大きく変わった。
ワークショップのテーマは「What does family mean to you?(あなたにとって、家族にはどういう意味がありますか?)。テート・ブリテンでは、半年後に「家族」に関するイベントを開催するため、ワークショップの参加者にその作品を作ってもらうという企画だった。
ワークショップでは、参加者が家族への思いや経験を語ったり、ブラジル人演出家による演劇のメソッド(例えば、家族と聞いて思い浮かべたことを、彫刻のようなポーズで表現するなどで可視化したり、言語化したりすること)で議論を重ねながら本質を探していった。
多国籍で、年代も性別も異なるメンバーからは、誰が聞いても理想の家族の話から、家族なんて二度と会いたくないという話、「自分の体が悪くなったら、誰も会いに来てくれなくて、今ではヘルパーさんが自分の家族」という話まで千差万別だった。
それでも、「家族とは、みんなにとって生まれた場所で、ポジティブにもネガティブにも切り離せないほど大切なものということを、確認し合った時間でした」と、みっつんさんは振り返る。
このときの議論で、みっつんさんは「家族とは」と聞かれて、「男親と女親と子ども」を思い浮かべたこと、つまり、自分には家族に対する固定観念があり、その固定観念がゲイとして家族を持つことへの不安につながっていると気付いた。しかし、みんなと議論し作品を作っていくうちに、「自分なりの家族を作ればいい」と考えられるようになった。
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