北朝鮮「怒濤のミサイル発射実験」の先にあるもの 米韓軍事演習で激しくなっているプロバガンダ

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「北朝鮮にとっては不満だろうが、中国(とロシア)が、北朝鮮が属さなければならない“地政学的バスケット”だと判断している」と、同氏は語る。カーリン氏は、北朝鮮が紛争を望んでいる証拠はないとしながらも、北朝鮮が尹政権を「おとりにする」方法を考えているのではないか、と危惧する。

その目的の1つは、韓国を刺激して、文前政権時の2018年に締結された南北合意(武器の携帯を禁止するなど、JSAの新しい非武装ルールを確立した)を終わらせることかもしれない。

「そうなれば、衝突の可能性が高まる」とカーリン氏は懸念する。前方の北朝鮮部隊が本当に戦術核兵器を持っているならば、こうした危険な衝突は悲惨な結果を招きかねない。

アメリカ政府高官「軍事対立には向かわない」

しかし、アメリカ政府関係者は、2010年に北朝鮮が韓国海軍の艦船を撃沈し、延坪島を砲撃したような、通常の軍事衝突に向けた動きは見られないとしている。

韓国駐在のアメリカ政府高官で、国境界隈の情勢に詳しい人物は、「北朝鮮側はさまざまな発言をしているが、従来の軍事的対立に向かうようなことはしていない」と語る。非武装地帯(DMZ)の北半分に位置する北朝鮮軍の姿勢に目に見える変化はなく、西側の黄海に展開する軍備にも変化はないと同氏は言う。「北朝鮮は軍事力を使って軍事対決に向かい始めているわけではない 」。

2010年の事件は例外的だったと、同高官は主張する。当時26歳だった金正恩が、父親の金正日から後継者として育てられていた時期であり、金正恩は父親から後継者として認められるために攻撃を仕組んだというわけだ。「今はそのような状況にはなく、朝鮮人民軍(KPA)などによる2010年レベルの出来事を示唆するものも見当たらない」。

「アメリカ軍の戦力がこれだけ充実し、韓国軍とアメリカ軍が長い間をかけて調整・準備をし、尹大統領が北朝鮮の挑発に寛容であり続ける今、KPAがそうしたリスクを冒すとは考えにくい」と、元アメリカ国務省高官で長く韓国を担当しているエヴァンス・リヴィア氏は指摘する。「とはいえ、北朝鮮は時折見せる愚かさで、以前にもわれわれを驚かせたことがある」。

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