北朝鮮「怒濤のミサイル発射実験」の先にあるもの 米韓軍事演習で激しくなっているプロバガンダ

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最近の論評やレトリックは主に北朝鮮の国内に向けたもので、食糧不足など経済が深刻な収縮に陥っている時に、ミサイルや核開発への支出継続を正当化するためだと在韓のアメリカ軍関係者は考えている。外部に向けては「朝鮮半島の緊張を激化させているのはアメリカと韓国であるというシナリオを推進しようと試みている」。

明らかなのは、金正恩政権が、攻撃を受けても生き残り、報復可能な、信頼できる核抑止力を持っていることを示し、非核化を否定することを誇示するために必死だということだ。

より重要視されている「発言」

この軍関係者は、前述の匿名の「解説者」による論評よりも、3月28日に金正恩が核兵器研究所とミサイル総局を訪問し、異なるミサイルシステムに交換可能な戦術核弾頭の列を検査する姿を掲載した公式報告書にある、金正恩自身の発言をはるかに重要視している。

金正恩は、「核の反撃」を模擬した訓練の計画書と命令書を調べたと報告されている。公式発表では、北朝鮮の「強力な抑止力」は「いかなる国家や特定の集団に向けられたものではなく、戦争や核災害そのものに向けられたもの」であり、アメリカや韓国を標的とした表現は避けられた。「これは対決のためのポーズではない」と関係者は結論づけている。

元核査察官で、権威ある科学国際安全保障研究所を率いるデヴィッド・オルブライト氏は、抑止力が目的の一部であることは認めている。しかし、その目的の信頼性は、北朝鮮の行動によって疑わしいものになっている。「(北朝鮮の目的は)核兵器の飛躍的な増加、核分裂性物質の生産の拡大、強力な核兵器の生産、交換可能な核弾頭、核兵器を搭載した水中ドローンなどの要求」だとオルブライト氏は説明している。

「北朝鮮は(クレイジーではあるが)戦争を想定した核兵器を生産しているように見える 」とオルブライト氏は話す。いずれにせよ、北朝鮮の実験と核弾頭製造能力の開発の目的は着実なものであり、交渉に影響を与えるという考えではないと、前述のアメリカ政府高官は述べている。

金正恩の意図がどうであれ、戦力の増強と戦争が近いことを示唆する暴言の増加は、事態が制御不能に陥る危険性をはらんでいる。「従来の軍事的対決には何の効用もない」と、北朝鮮の発言や活発な展開を注意深く監視している政府高官は話す。「偶発的な事故がエスカレーションの引き金となり、そこから抜け出せなくなることが心配だ」。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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