ここで問題なのは、こうした成功事例に対して調査協力費などは支払われないことです。タダでヒアリングに対応し、タダで資料を出し、タダでチェックをするのです。
「成功者」はタダ対応、「調査企業」には事業費の矛盾
しかし、その一方で調査に来ていたシンクタンク等には数百万円から数億円の事業費が、行政から支払われていたりします。苦労して成果を生み出した関係者には一銭も入らず、単にそれを調べている受託企業だけが収入を得る「成功事例調査」が、今も続けられています。
おカネの問題だけではありません。この対応によって、現場は無駄な時間を費やされることになります。その結果、活動にかけられるリソース(資源)が少なくなってしまいます。「時間だけをとられておカネにもならない、活動も低迷する構造」がここにあります。
成功事例集に掲載されるだけなら、まだましかもしれません。成功した事業の関係者に対しては、その後「視察見学」、「講演」、そして「モデル事業化にしてうまみを吸う」という、主に「3つの形態」で乗っかろうとする構造があります。どういうことでしょうか。一つ一つ見ていきましょう。
(1) 視察見学対応で忙殺される成功事例
「成功した取り組みをぜひとも見たい」という、議会や自治体、一般の方々から依頼が増加します。彼らは「先進地視察調査」の予算を持っているので、話題になっている地域に皆で出かけ、勉強しようとしています。
成功事例集に掲載されると、この「視察見学」の依頼が一気に増加します。多くの人が訪れて、場合によっては視察見学料をとったり、宿泊や物販などで地域に経済効果がある、ということもありますが、そのような収入は一過性です。
一方で、本来は地域活性化に使っていた時間を、視察見学への対応にとられるようになります。この間、「先進地域」は視察見学対応で忙しくなってしまい、活動は前に進まなくなり、低迷期を迎えてしまうことも少なくありません。そして、成果が低迷すれば見限られ、翌年は当然新たな「成功地域」に皆が視察に行く。まるで「焼き畑農業」です。このように、成功事例は「視察見学市場」でも使い捨てられます。
(2)講演会ラッシュで生まれる、成功事例トップの不在
これも深刻な問題なのですが、成功した地域を率いている重要なトップ(キーパーソン)は、全国各地で開催される講演に呼ばれるようになります。全国区で注目されると、かなりの件数の依頼が入り、それらに対応しているだけで、地元にいられる時間は当然、以前より少なくなります。
なるほど、講演会などに代表が呼ばれていくことは、関係者にとって誇らしいことでもあります。また講演料などをもらえば、「一過性の収入」が入るため、どうしても優先したくなってしまいます。講演会に参加した人が、地元を訪れるなどという効果も無視はできません。
しかし「講演会ラッシュ」の間、トップの地元不在が続き、結局のところ成果が低迷しがちなのです。そのうちに、「ジリ貧の活動を続けながら、虚しい講演活動だけ繰り返す」ことになっては悲惨です。
実は成功事例は次々と代わるため、いつまでも「講演会でひっぱりだこ」などということはありません。講演会市場もまた、消耗戦なのです。
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