WBCで注目される今、考えたい「球児のケガ・故障」 「成長期の子と野球の付き合い方」専門家が解説
一方で、先日のWBCでは、韓国戦で小指を骨折した源田壮亮選手がテーピングをして試合に復帰した際、「痛みに耐えながらよく頑張った!」という声が多く上がった。
もちろん、プロ野球選手がWBCという大舞台において、医師やトレーナー、監督、所属チームなどと話し合って決めたことであり、そのこと自体に問題はない。だが、「ケガや痛みに耐えるのは尊いこと」と第三者が美談にする風潮には問題がある。
「日本人はケガをおして試合に出ると、『よく頑張った』と評価しがちです。プロは、最終的には自分の判断でケガをしても出場することがあるでしょう。でも、アマチュアが同じことをしてはいけません。小中学生、高校生なら絶対にやめるべきです」(古島さん)
無理をすることが美徳とされると、子どもたちも影響を受ける可能性が高い。「高校生で手術するほどのケガや障害に苦しめられるのは、真面目で頑張りすぎた子が多いのです」と古島さんは言う。
「よくあるケースをご紹介しましょう。小学生の頃からエースで、その子が投げれば勝てるので毎試合先発を任され、中学では全国大会で上位に勝ち上がり、高校は甲子園常連校に推薦入学する子がいます。高校1年生からベンチ入りするものの、2年生の途中から肘が痛くなって満足に投球できなくなり、結局は手術をして病院のベッドでテレビ越しに甲子園に出場した自分の高校を応援する……そんな選手が実際に何人もいるんです。ですから、指導者が子どもたちをケガや障害から守らければなりません」(古島さん)
オフに違うスポーツをすることも必要
近年では、過度の練習によるケガや障害で野球を辞めざるをえなかった子のことが報道などで知られるようになっている。また、肩肘検診などによって知識が広まりつつあり、地域によっては指導者講習もある。
たとえば、群馬県のスポーツ少年団野球部会では、毎年学童指導者に対して講習を行い、受講者にライセンスを発行している。これを受講しないと監督としてベンチに入れない。近年では「ぐんま野球フェスタ」を開催し、オンラインで受講してもらっている。
「まだ古い考え方の指導者もおられますが、理解してくださる指導者もどんどん増えています」(古島さん)
古島さんが講習を受けた指導者のアンケート回答を見ると、昔より「子どもの障害予防は大事であることがわかった」とか「もっと野球が楽しくなるようにしていきたい」などと、とても前向きなコメントが増えているという。この活動を全国に広めていきたいとの考えだ。
他方、子どもに無理をさせないことを提案すると、必ず「そんなことでは勝てない」と言い出す人がいる。古島さんは、それにどう答えるのか。
「最も重要なのは、目の前の勝利ではありません。勝利ばかりにこだわり、障害を起こしたりすると、子どもの夢を奪ったり遠ざけたりしてしまうことにもなりかねません。指導者にとって最も大事な役割は、試合で勝たせることではなく、子どもたちをケガや障害から守ることにあります。『故障なく次のカテゴリーに送り出す役割』というのが、世界標準の考え方です」(古島さん)
小中学生のうちは子どもが主体性を持ち、短時間の内容の濃い練習に集中できるようにし、より野球を好きになって楽しめるよう指導することが大事だという。「もっと上手くなりたいという気持ちがあれば、高校からでも伸びるものです。焦って育てないことが大事だと思います」と古島さん。
興味深いのは、「小中学生の野球選手で、野球自体はそこそこ上手なのに、体の柔軟性がなかったり、前転や後転といったマット運動、跳び箱、鉄棒などの運動ができない子がたくさんいる」(古島さん)という点だ。
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