WBCで注目される今、考えたい「球児のケガ・故障」 「成長期の子と野球の付き合い方」専門家が解説

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運動能力が発達する小中学生は、野球だけではなく、水泳や体操などさまざまなスポーツで運動経験をすることで、基礎的な運動能力を伸ばしたほうがいい。

「複数のスポーツを行うことで、野球だけでは培われない運動神経やバランス感覚が身につき、それが結果的に野球にも生きてきます。何よりシーズンオフには肩や肘を休ませたほうが、ケガや障害のリスクが減るのは確実です」(古島さん)

日頃の食事や生活では、何か気をつけるべきことはあるだろうか。1食につき3合などといった大量の白米、「タッパ飯」と呼ばれる大容量タッパーに詰めたお弁当を食べさせたり、プロテインやカルシウムをサプリメントなどで摂らせたりするチームもあるという。

「炭水化物ばかりたくさん摂らせることには賛成しません。吐くほど食べさせた事例なども聞いています。そんな過度のエネルギー補給が必要なほど練習をさせる必要はありませんし、無理やり大量に食べさせると食事が嫌いになります。どの栄養士さんも言うように、過度に炭水化物を摂るのではなく、さまざまな栄養をバランスよく摂るほうが大事です」(古島さん)

食事は、ジャンクフードや菓子をなるべく避け、バランスのよい内容を心がければ十分とのこと。もちろん、サプリメントは不要だと古島さんは言う。過度に摂取しても結局体外に排出されてしまうし、今の日本では普通にバランスよく食べていれば摂取不足になることは少ない。また、睡眠は成長ホルモンの分泌を促すので、しっかりとったほうがいいとのことだ。

注意深く見守ってあげてほしい

最後に、保護者はどういうことに気をつけて子どもを見守っていくべきかを聞いた。

「お子さんがケガや障害を負ってないか、注意深く見守ってあげてください。日頃から痛みを我慢してまで練習や試合をやり続けてはいけないことを話しておき、痛いところがあれば休み、必要に応じて医療機関にかかりましょう。そして勝ち負けより、その試合を楽しむ、人との比較ではなく自分がどれだけ向上したかに目を向けることを教えてあげてください。上達する喜びが感じられるような声かけをしてあげるといいと思います」(古島さん)

こうした内容は、野球によるケガや障害に苦しむ多数の子どもたちを目の当たりにし、治療を行うだけでなく、指導者講習にも力を入れてきた古島さんだからこそ伝えられることだ。

「子どもたちは、とてもたくさんの可能性を秘めています。その可能性を、ケガや障害でつぶしてしまわないよう、指導者や保護者が気をつけていきましょう」(古島さん)

繰り返すが、野球に限らずスポーツをしていて体に何かしら痛みが出た場合は、いったんすべての練習や試合を休んで、医療機関にかかることが大事だ。スポーツを専門としている整形外科は、最近ではどの都道府県にもあるという。

古島弘三医師
慶友整形外科病院副院長 兼 スポーツ医学センター長
日本整形外科学会専門医。日本整形外科学会認定スポーツ医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。日本整形外科スポーツ医学会評議員。日本肘関節学会評議員。日本末梢神経学会評議員。全日本軟式野球連盟理事 医科学委員。日本ポニーベースボール協会常務理事。群馬県スポーツ少年団野球部会顧問。一般社団法人スポーツメディカルコンプライアンス協会特別顧問。中学硬式野球館林慶友ポニーリーグ代表。毎年『ぐんま野球フェスタ』などにて指導者講習を開催している。
大西 まお 編集者・ライター

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おおにし まお / Mao Onishi

出版社にて雑誌・PR誌・書籍の編集をしたのち、独立。現在は、WEB記事のライティングおよび編集、書籍の編集をしている。主な編集担当書は、森戸やすみ 著『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、宋美玄 著『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』、名取宏 著『「ニセ医学」に騙されないために』など。特に子育て、教育、医療、エッセイなどの分野に関心がある。

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