WBCで注目される今、考えたい「球児のケガ・故障」 「成長期の子と野球の付き合い方」専門家が解説
野球における肘障害は、予防策として「投球制限」が挙げられることが多いのだが、それだけでは減らすことはできるものの不十分だという。強度の強い投球負荷の蓄積、投球フォームの悪さ、疲労状態での投球過多、骨の成熟度などが関係するためだ。
また、“自分のイメージどおりに体を動かせているかどうか”も関係してくる。例えば、本人は投球時にしっかり肘を上げて投げているつもりなのに、実際は下がっていて、自分がイメージしている動きが実際にはできていないというケースは多々ある。そういった関節位置覚がまだ敏感でなく未成熟な子どもは肘を痛めやすい。
さらに体がどんどん大きくなる成長期の子は、手足が長くなり重くなる、身長が急に伸びるなどの変化により、動きの感覚にズレが生じる(クラムジー現象)ために故障しやすくなるケースもある。
当然、故障が生じれば、すぐに休むこと、必要に応じて治療をすることが大切だ。しかし、痛みの感じ方は個人差が大きく、さらに膝や股関節の痛みと違って我慢すればある程度は投げられてしまうため、我慢して練習や試合を続ける子がいる。
「病院に行くと、練習や試合への出場ができなくなる」「放っておいても治るんじゃないか」と、親や指導者に痛みを訴えない子もいるだろう。
「肘障害を放置すると、偶然うまく治る場合もありますが、裂離(れつり)骨折といって肘内側の軟骨ごと骨がはがれたままになり、そのせいで靭帯の緊張がなくなったりしてしまうこともあります。するとパフォーマンスが低下するのはもちろん、ときどき痛んだり、再発したりすることもよくあるので早めの対処が肝心なんです」(古島さん)
大人になっても痛みが残る場合は手術が必要になるリスクも高いが、早期にしっかり治療すれば、それまでと遜色なく復帰できることが多いと、古島さんは話す。
「肘障害の場合は、まず装具をつけて固定して安静にします。その後、少しずつ体を柔らかくしたり、投球フォームを修正したり、猫背を正して姿勢をよくしたりといったリハビリをするのが一般的です」(古島さん)
過度の走り込み、素振りも高リスク
では、子どもは投げ込みによる肘障害にだけ気をつけたらいいのかというと、それは違う。骨の成長期にあたる子どもは、強度の強い運動による負荷はほどほどにしたほうがいい。
小中学生だと、過度の走り込みやウサギ飛びによって膝下に痛みが出る「オスグッド病」、過度の素振りによって腰骨の一部が分離する「腰椎分離症」、過度の上肢筋肉トレーニングによって上肢に痛みやしびれが起こる「胸郭出口症候群」などに注意が必要だという。
「子どものうちは強度を上げて追い込む練習を行うより、いかに障害を起こさないで運動神経を向上させるかに重点を置いたほうがいいでしょう。また炎天下で水分不足のまま練習することによって起こる『熱中症』なども予防できることなので、監督やコーチはそういった知識を学んだうえで指導にあたるべきです」(古島さん)
成長期における過度の走り込み(強負荷トレーニング)は、体重増加、骨量増加、骨長増加に抑制的に働くため、身長を伸ばすためにも避けたほうがいい。身長増加を考えるのであれば、「6割程度の強度で、週3回10〜20分程度で十分であるという報告もある」(古島さん)という。
日本では昔からよく「限界まで素振り、投げ込み、走り込みをして、体に染み付かせるべき」などという根性論が尊ばれてきたが、現在ではそういった練習は非論理的かつ非効率的であり、子どもの体にとってよくないともいわれるようになってきた。
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