4月からのNHK「受信料割増金」恐れる人の盲点 305億円削減「訪問員廃止」妥当と思えないワケ

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それをポスティングや郵送で設置届を促すことで代替できるのか。「誠実な説得」が必要な契約を、書面を送ることで果たして応じてくれるのか。「放送等を活用した周知」も行うというが、未契約者は一人暮らしを始めたり結婚して新居を持ったりした若者世帯が中心だろうから、放送をほとんど見ていなくて周知にはならない。放送と書面でのアプローチに「割増金2倍」が加わることで紙の上で安心しているだけに思えて仕方ない。実際に「お金を払ってもらう」のは、大変なことなのだ。

外注営業費の削減は、この1月で任期を終えたNHKの前会長、前田晃伸氏が自分の功績の一つとして語っていたが、私には逆に大きな負の遺産に思えてならない。

NHKの目指す「公共メディア」とは

ただ今回の「2倍騒動」も、過渡期の1ステップにすぎない。実はまた2021年11月から総務省の有識者会議「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」がスタートしており、その分科会として「公共放送ワーキンググループ」という会議体も2022年9月から始まっている。ここではNHKの同時配信の次のステップとしての「インターネット活用業務」が議論されており、まだまだ途中だが、いずれ受信料の新たな形についても議論されるだろう。ただ傍聴していても見えてこないのは、NHKはインターネットで同時配信以上に何がやりたいのかだ。もちろんネットでもNHKのニュースサイトはあるし、「NHK政治マガジン」や「NHK取材note」などはストレートニュースをさらに深く理解できていい。ただ、現状はやはり放送がメインで同じ内容をネットで流し、あとは補足コンテンツとしているように思える。

「公共メディア」を目指すというが、実際には「公共放送+ネットで補足」にしか見えないし、だったら放送に対する受信料のままでいいじゃないかと言いたくなる。だがもちろん、それではいずれ誰も見なくなってしまう。NHKはネットで何をしたいのか、公共メディアとはどんな姿なのか。それが示されて初めて「だったらこういう料金体系だ」と議論ができるのではないだろうか。

そしてそれは結局、NHKだけでは示せないとも思う。走りながら、人々と共に作るしかないからだ。誰も放送の次の形は知らないし、みんなで考えるものだと私は思う。今すべきは、国民を柔らかく巻き込んだ議論ではないだろうか。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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