分身ロボット働くカフェが体現する「障害と社会」 日本橋で外出困難者が接客、客の大半は外国人

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このように、知らない誰かと出会う、仲間をつくる、スキルを磨く、新しい経験を得るなど、多くのやり甲斐を仕事から得ているちふゆさん。収入面の満足度はどうなのだろうか。

「もとの仕事はフリーランスで何の保障もなかったし、いつ仕事ができるようになるかもわからない中、高額な医療費で貯金を削っていくだけという絶望的な状態でした。そんな私にとって、DAWNでの収入はまた自分が少しずつ貢献できるようになったことの証しでもあるので、うれしいです。パイロット仲間には、推し活など好きなことをするための費用にあてている人もいますよ」(ちふゆさん)

カフェでの収入は精神的にも助けになっているようだ。前述のようにDAWNの給与は東京都の最低賃金(時間額1072円)が基準となっている。ただ一般的に生活していこうと思えば、カフェの仕事だけでは十分ではないだろう。

今後さまざまな立場の人が仕事を持てる社会を目指すうえでは、収入の確保も課題だ。

企業への就職につなげていくのが目標

濱口氏によれば、将来的に、パイロットたちを企業への就職につなげていくのがDAWNの目標だという。

「企業には障害者雇用枠が課されているため、車いすなどで動くことのできる方はすでに働いているのが現状。今後は分身ロボットで働ける企業を増やし、外出困難な方に就職の道を拓いていきたいと考えています」(濱口氏)

店内はもちろんバリアフリー。トイレもストレッチャータイプの車いすが入れるよう設えられている。また嚥下が不自由など食事支援を要する人のためにミキサーなどの機器貸し出しも(撮影:今井康一)

障害者雇用促進法では、全従業員の2.3%(公的機関では2.6%、都道府県教育委員会は2.5%)の障害者雇用を義務づけている。

2022年の6月時点では雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高となっており、民間企業では61万3958人の障害者を雇用、実雇用率は2.25%だった。また、法定雇用率達成企業の割合は48.3%という。

雇用率が達成できない理由はさまざまだろう。例えば障害の種類も程度も人によって異なり、雇用する場合はその人に合わせて働ける環境を整えなければならない。これにはお金も時間もかかるし、何より、共に働く従業員を含めて、企業全体が障害について理解することも大切だ。

ただ希望と言えるのが、コロナ禍や物価の高騰で企業の経営環境も厳しくなっているのに、障害者雇用率は改善されてきていることだ。コロナで進んだデジタル化やリモートワークなどの働き方の変化、「働く」ということへの意識の変化が関係しているのではないだろうか。

個性豊かなパイロットと分身ロボットたちが楽しげに働くDAWNは、さまざまな制約を解き放った未来の働き方を示唆してくれるようだ。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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