これらの結果は、直接の影響を受けていない国々の国民の間ではウクライナでの戦争を自分事ととらえて積極的に支援する意識が少しずつ薄れていることを示唆している。
しかし、欧州市民の関心の低下や疲労感の蓄積は、EUからのウクライナ支援のテンポや追加制裁の発動が遅くなり規模の拡大を妨げる一因となりかねない。ゼレンスキー大統領は昨年6月、フランスのカンヌ映画祭におけるオンライン演説にてこのように強調した。
「戦争の終結と国際情勢は、世界が注目してくれるかどうかにかかっている」
求められる「丁寧」かつ「大胆」な政策決定と共同声明
このように、ロシア・ウクライナ戦争における欧州としての結束と、その結束の脆さと、その双方が、国家間のレベルでも、市民のレベルでも存在することに目を向けねばならない。国家間レベルで言えば、すでに見たような世界観についての認識に揺らぎが見られる。また、市民レベルで言えば、戦争への関心低下と疲労感の蓄積が、今後の結束のほころびとなるかもしれない。脆さを抱えながらも、今後も対ロシア制裁を続け、ウクライナ支援を続けることについて、EUとEU加盟国がどのような方向性を示していくか、注目していく必要がある。
EUのリスボン条約の第2条・3条に記載されているとおり、「民主主義」や「法の支配」といったEUの中核的な価値、そして平和を推進することにかけるEUの思いは強い。しかし、価値観や理念を振りかざすことに対しては、ハンガリーをはじめとした国々の反発を招きかねない。それぞれの立場や価値観に耳を傾けながら、ルールに基づく国際秩序をともに構築していくべく対話を続け、ウクライナ侵略の長期的なコスト(「理」)についての認識を丁寧にすり合わせていくことが重要である。
ウクライナへの支援をより強固なものにするために、ウクライナ支援に対する結束を示し、支援の必要性を欧州市民の「情」に訴え続けることも重要となってくる。5月に開催される広島G7サミットを始めとして、EUおよびEU加盟国が関わる声明・宣言においてどの程度強い言葉でロシアを非難し、具体的なウクライナへの支援を打ち出し続けるかが改めて問われている。つねにインパクトのある新しいメッセージを出し対策を打ち出し続けなければ、世論の関心は少しずつ離れていく可能性が高くなってしまうからである。
ウクライナ戦争が長期化する中、EUには「丁寧」かつ「大胆」なかじ取りが求められている。
(石川雄介:アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/地経学研究所 研究員補)
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