対ロ制裁や巨額の支出がもたらすEUおよび加盟国各国の負担は、決して小さいものではない。はたして、これからもEUとEU加盟国は継続的な支援を続けることができるのだろうか。それを考えるうえで慶應義塾大学の鶴岡路人准教授は、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)において、「情」と「理」がウクライナ支援の継続を左右すると指摘する。
ロシアによるウクライナでの残虐な行為を目の当たりにして支援をしなければいけないという「情」と、ウクライナへの侵略を今ここで止めなければEU加盟国へ侵略されるという、より大きなコストを払う危険性が生じるという「理」の2つの側面を考慮に入れることが重要だ。
支援策に対する不満の蓄積?
戦争開始から1年が経過した現在でもEUおよびEU加盟国によるウクライナへの支援は継続しており、さらにいくつかの側面ではむしろ支援は強化されている。しかし、その一方で、戦争が長期化する中で、欧州におけるウクライナ支援への不満も一部で溜まり、EUにおいて揺らぎが生じていることにも目を向ける必要がある。
その中でも注目すべき動向として、ハンガリーによるEUの対ロ制裁とウクライナ支援策への不満の表明が指摘できる。2月に行われた年頭演説において、ハンガリーのオルバーン首相は「制裁はハンガリー国民の懐から4兆フォリントを奪い取った」と言い放ち、その不満を表明した。
EUに対してこれまでしばしば批判を繰り返してきたオルバーン首相のこのような反発は、戦争開始直後から少なからずみられたものである。また、ハンガリー経済のEUへの依存度の高さを考慮すれば、その批判の実態はウクライナ支援において自国に有利な条件を引き出すための交渉材料として利用するに留まり、EUによる追加的な対ロ制裁やウクライナへの支援に関する決議は、実際にはこれまで継続的に採択されてきた。
オルバーン首相がEUの方針に対して対決的な姿勢を示す一方で、昨年5月にハンガリー大統領に就任したノヴァーク・カタリン大統領は、権限は限られてはいるもののロシアの侵略を公然と批判し、ウクライナのEU加盟を支持している。オルバーン政権としてのEUによる対ロ制裁やウクライナ支援に対する否定的な姿勢に変わりはないが、EUに対して一定の配慮をしているようにもみえる。
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