40歳過ぎて保育士になった彼女が見た保育の真実 子どもと大人の世界が混在するカオスの断片

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共感の言葉を返しながらも、心では落胆していたという大原氏の気持ちは痛いほどにわかる。

“使える保育士”というのは、どういう保育士をいうのだろう。子どもたちが安心してすごせる保育園の土台は、人と人との信頼関係だ。職員同士が信頼し合い助け合って子どもたちの成長を支える。先入観で人を判断し、信頼できないと最初から決め込んでは、築けるはずの信頼関係も築けないのではないか。
「では、今から派遣元に連絡して、今日はこれで失礼させていただくことにします」
私がそう言うと、園長はさすがにまずいと感じたのか、
「そんなこと言わないで。せっかく来てくれたんだから」と言いおいて、事務室から出て行ってしまった。(16ページより)

派遣保育士の場合、派遣先でなにか問題があれば、派遣先に報告しなければならないようだ。つまり大原氏は逆ギレしたのではなく、するべきことをしたにすぎない。そのことは書き添えておくが、どうあれこれほど報われない話もない。

保育園のヒエラルキー

これだけでもわかるように、保育士として雇用されている職員の雇用形態はさまざま。「正規職員」のほかに、「非正規職員」である契約社員、パート、アルバイトがおり、さらには大原氏のような派遣会社からの派遣保育士もいるわけである。

パートや派遣などの非正規職員は、保育士の資格がなくても従事できる「保育補助」という仕事をすることが多いそうだ。ただし保育補助という仕事の内容は、園によってさまざまらしい。

「保育に関わることならなんでもさせることができる」のが「保育補助」だと私は思っている。クラス担任が時間的にできないこと、したくないことは全部「保育補助」に丸投げする。必然的に保育園の中には、正規職員である保育士が“上”、それ以外の非正規保育士が“下”というヒエラルキーが生まれる。(42ページより)

したがって、保育補助を行う保育士は従順でなければ勤まらないことになる。そんなこともあり、逆らうことはおろか、意見を述べることすらしない人も多いそうだ。

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