40歳過ぎて保育士になった彼女が見た保育の真実 子どもと大人の世界が混在するカオスの断片

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あおぞら保育園では、10時に「朝の会」が始まる。園児を整列、着席させ、高森さんが出席をとりながら、1日の活動の流れ(お散歩に行く、園庭に出る、制作をするなど)を園児たちに説明していく。
「今日はこのあと、お庭に出ます。寒いので上着を着てください。あと、帽子も忘れないでね」
言い終わるや否や、園庭で早く遊びたい子はすでに立ち上がり、満腹さんからやんわりとたしなめられている。(104ページより)

午前の活動のあとは昼食で、食事が終わったら午睡。子どもたちを寝かしつけ、出勤時間の早い保育士から昼休憩へ。休憩が終わったころに午睡の時間も終わるので、子どもたちを起こしてまわり、起きた子から順番におむつを替えていく。それから、おやつの時間が終わると午後の自由時間。保育士はそばで見守るか、一緒に遊ぶか、時と場合によるそうだが、1日でいちばん心安らぐ時間だという。とはいえもちろん、なにが起こるかわからないのだから気は抜けない。

やがて夕方4時をすぎると早お迎えの子どもたちが降園し始める。ひとり、またひとりと保育園をあとにするのだが、保護者と園児が抱き合い、親子の絆を実感する幸せな光景が見られるのもこの時間である。迎えに来た保護者に抱き着く子どもたちを見ていると、保育園でどれほど笑顔ですごしていても、やっぱり親には勝てないな、と実感する。(106ページより)

この日の勤務は6時半までで、帰宅は7時半すぎ。

玄関を開け、身支度を整えながら、3分後にはキッチンに立っている。缶ビールを注ぎ、右手にグラス、左手にフライパン、やっと自分に戻れる時間である。午後8時ごろに娘2人と3人で食卓を囲む。(中略)
できあがった食事を口にしながら、娘たちとその日の出来事をしゃべったり、テレビに映った芸能人の話に花を咲かせたり……。
午後11時、布団に入ると同時に録画しておいた「キューピー3分クッキング」を観る。これが至福のルーティンである。番組内で料理ができあがるころには睡魔に勝てず寝落ちしている。(106〜107ページより)

正規であろうが非正規であろうが

保育士による子どもへの虐待に関する報道があとを絶たない。それらを目にすればつらい気持ちになってしまうし、子どもに手を上げるような保育士は当然責任を問われるべきだ。

しかし、そういった状況だからこそ、大原氏のように子どもに親身になって尽力している保育士(「正規職員」であろうが「非正規職員」であろうが)がいることにも目を向ける必要がある。私たちもそれぞれが、広い視野を持たなければならないのだ。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。

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