40歳過ぎて保育士になった彼女が見た保育の真実 子どもと大人の世界が混在するカオスの断片
私は園庭のすぐ隣にある玄関を抜け、ロッカールームに通される途中で、その園の絵本棚を見た。絵本棚は本棚の体裁を保っていなかった。整理整頓が何ヵ月もされていないことは明らかだった。慢性的に人が足りない保育園に共通することは、絵本棚が著しく乱雑なことだ。(12ページより)
散歩に出ている子どもたちが帰ってくるまで時間のあった大原氏が絵本棚の整理を申し出ると、園長は承諾したもののけげんそうな顔をしたという。つまりその園には、絵本棚の整理を買って出るような人はいなかったということなのだろう。だが大原氏によれば、絵本棚はその幼稚園の内情を知るうえで大きな意味を持つそうだ。
いうまでもなく、働きやすい保育園には保育士が集まり、子どもたちにたくさんの絵本を読み聞かせることになる。子どもたちは、お気に入りの絵本を持ってきては保育士に「読んで」とせがむわけだ。したがって絵本も大切に扱われ、整理整頓され、補修も日常的に行われる。
だから新しい園に派遣された際には、絵本棚をチェックすれば内情がわかるのだ。
私は絵本棚の前に座り込み、最初の一冊を引き抜いた。『おおきなかぶ』という絵本だった。『おおきなかぶ』はたいていどこの保育園にも置いてある。けれども、これほど痛々しい姿をしたものは初めてだった。遊び紙は破かれ、背表紙も中身も破れてボロボロである。セロハンテープであちこち補修されているが、貼られた箇所は劣化して黄色く変色している。
どの本も、開けばカビのニオイがした。子どもたちに絵本を読み聞かせる余裕がないことがすぐにわかる。慢性的な人手不足という背景があるから、私のような派遣保育士が必要とされる。(14ページより)
どの本も、開けばカビのニオイがした。子どもたちに絵本を読み聞かせる余裕がないことがすぐにわかる。慢性的な人手不足という背景があるから、私のような派遣保育士が必要とされる。(14ページより)
どうしてあなたみたいな人が
「ところで、あなたは認可保育園で働いたこと、あるの?」
ふいに園長から尋ねられた大原氏は、「認可園での勤務は当然ありますが、保育士になってまだ数年なんです。社会人になってから国家試験を受けて保育士になったもので」と答える。前述したような事情があったからだが、このあと園長から返ってきた言葉には、読者も驚かされるだろう。
「そうだったの、国家試験の人は使えなくて困るのよ。何も実務知らないから……。どうしてあなたみたいな人を派遣したのかしら」
「そうでしたか。養成学校卒業の保育士さんを希望されていたのですね」(15〜16ページより)
「そうでしたか。養成学校卒業の保育士さんを希望されていたのですね」(15〜16ページより)
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