東大入学後に全員「教養学部」で学ぶ深い理由 「普遍的教養」の重要性を強調していた南原総長

✎ 1 ✎ 2
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

彼は、19世紀の後半になって西欧では学問の専門分化が進み、分野ごとの独立性が増していったことを確認したうえで、明治以降の日本がそうした西洋文化をそのまま移入したために、「学問研究者が相互に共通のカルチュアやインテリジェンスでもって結ばれていない。おのおのの科学をほり下げて行くと共通の根にぶつからないで、各学科がみんなタコツボになっている」ことを指摘しました。

「知の総合化」の重要性を説く南原総長の式辞

丸山眞男は、それまでにも南原繁にたいして批判的な文章をいくつか書いており、両者の関係は、いわゆる「師弟」という言葉では単純に語ることのできない微妙な緊張をはらんでいましたが、それでも彼が日本の大学について「ユニヴァーシティという本来の意味からは甚だ遠いのが実状」と語っているのを見ると、こうした議論の根底に、南原の思想の影響が色濃く見られることは否定できないように思われます。

東京大学の式辞 (新潮新書)
『東京大学の式辞』(新潮新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

しばしば言われることですが、21世紀を迎えてすでに四半世紀近くが経過したいま、気候変動の問題、原子力発電の問題、そして近年世界を席巻した新型コロナウイルスの問題など、人類は特定の専門分野だけではおよそ対応することのできない複合的な危機に直面しています。

こうした状況を前にして、今ほど異なる学問同士の連携が求められている時代はありません。その意味で、「知の総合化」の重要性を説く南原総長の式辞は、まさに来るべき社会的課題を先取りするものであり、あらためて読み直される価値があるように思われます。

昨今話題になることの多い「リベラルアーツ」の概念も、当然この流れと直結するものとしてとらえることができるでしょう。

関連記事:『女性の「東大入学」を要望し続けた姉妹の悲運

石井 洋二郎 中部大学特任教授、東京大学名誉教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いしい ようじろう / Yojiro Ishii

1951(昭和26)年東京都生まれ。専門はフランス文学・思想。東京大学教養学部長、副学長などを務め、2023年3月現在中部大学特任教授、東京大学名誉教授。『ロートレアモン 越境と創造』など著書多数。2015年に教養学部の学位記伝達式で読んだ式辞が大きな話題になった。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事