「妊娠中絶」手術か薬かの問題よりもっと重要な事 「飲む中絶薬」承認に対するパブコメ1万2000件

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欧米では日本よりも性教育が充実しており、すべての人が自分の性や出産を自分で選択できる「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)の知識が浸透していることも背景の1つだという。

「中絶もSRHRの権利なので、その方法の1つとしてとらえられているのだろう。従って、承認されてはいても、経口中絶薬がベストな方法と認識されているわけではないと思う。もちろん、世界では当たり前にある選択肢が日本にはないという状況は避けたいので、選択肢の1つとして使えるようになるのは大事なことです」(稲葉医師)

価格は、日本産婦人科医会によると無料~数千円で利用できる国もあるようだが、欧米では約8万円(英国妊娠アドバイザリーサービス、全米家族計画連盟調べ)。日本では人工妊娠中絶は自由診療のため、現時点では不明だ。同医会の試算では、薬価と治療前後の経過観察にかかる費用と合わせて10万円ぐらいになるのではないかといわれている。

「避妊や中絶が自費」は不健全

そもそも保険適用外である中絶手術の価格は、病院ごとに異なるものの十数万円といわれる。これについて、稲葉医師は「中絶もそうだが、まず避妊が自費だという仕組みを変えてほしい」と訴える。「SRHRを守る手段である避妊や中絶が自費で、多くの場合、女性が負担しなければいけない状況は健全ではない」と思うからだ。

「避妊というと、男性が避妊しないのがいけないといった声がよく聞かれますが、その根底には『避妊=男性がコンドームをつける』という刷り込みがある。でも、コンドームは性感染症予防のためのものであって、避妊効果としては大して高くない。避妊をするのであれば、女性自身が行う避妊法(経口避妊薬、子宮内避妊具など)がより有効的だが、そうした教育が日本ではほとんどされていない。いざというときの緊急避妊薬の扱いも世界から遅れている」

「どんなによい中絶方法があっても、中絶をしたくてする女性はいない。望まない妊娠が減ることが一番いいので、避妊の正確な知識が広まってほしい。そして避妊も保険適用されるとか、何かしらの補助が付くなどの制度を作ってほしい」

と稲葉医師。経口中絶薬で中絶できると期待する女性に対して、改めてこう呼びかけた。

「この薬によってどのように中絶に至るかということを、女性自身がよく理解したうえで選択することが大切。手術と薬、双方の正しい情報を冷静に比較して、実質的に負担の少ない方法を選んでほしいし、あわせて望まない妊娠は女性自身が防ぐことができる、ということも知ってください」

関連記事:「緊急避妊薬」日本の扱いが世界から遅れている訳

稲葉可奈子
産婦人科医。関東中央病院産婦人科医長

京都大学医学部卒業、東京大学大学院博士課程修了。東京大学医学部附属病院などを経て、2015年より現職。一般社団法人「メディカル・フェムテック・コンソーシアム」副理事長、「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」代表理事を務める。
井上 志津 ライター

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いのうえ しづ / Shizu Inoue

東京都生まれ。国際基督教大卒。1992年から2020年まで毎日新聞記者。現在、夕刊フジ、週刊エコノミストなどに執筆。福祉送迎バスの添乗員も務める。WOWOWシナリオ大賞優秀賞受賞。著書に『仕事もしたい 赤ちゃんもほしい 新聞記者の出産と育児の日記』(草思社)。

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