「お金盗ったでしょ」認知症の母が放つ言葉の裏側 「物盗られ妄想」のターゲットになりやすい人とは

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それから2カ月後、私たちは再びオンライン上で集った。「この間のお姉ちゃんの言葉のおかげで、子育てをしているような感覚で、母と向き合えるようになりました。結婚もまだしてないんですけどね」と苦笑いしながら、そう話す妹さんの表情は、前回とは比べ物にならないくらい穏やかになっている。

「子どもが甘えていると思うと、なんだかすべて可愛く見えてきたんです。ちょっと不機嫌なときも癇癪を起こしているんだなと思えるようになりました」と、心の余裕が徐々に出てきたようだった。聞けば、ヘルパーさんに週2回来てもらうことにより、妹さんの物理的な負担が以前に比べて減ったそうだ。

「そしたらこの間、ヘルパーさんまで疑うようになってしまって。けどヘルパーさんは慣れたもので、上手に対応していましたね」と妹さんは笑っていた。お母さんにとっては、心許せる人が増えたというわけである。私は安心して、このミーティングを終えた。平井さん家族は、きっとこのあとに起こる困難も、家族で力を合わせて、乗り越えていってくれることだろう。

親と子の関係が逆転していく介護

さようならがくるまえに 認知症ケアの現場から
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過ちを許してくれる人こそ、信頼している人こそ、物取られ妄想の対象になりやすい。それには疑われる対象者が安堵・安心の要であることを理解して、私たちは接する必要がある。もし、疑われたことに対して腹を立て、本気で言い返しても何の意味もない。

介護とは親と子の関係が逆転していくことを、どれだけ受け入れられるかどうかにかかっていると私は思う。つまり、介護というのは、子育てと同じくらい尊いものであるべきなのだ。何かがなくなったとき、できる限り心に余裕を持ち、一緒に探してほしい。宝物を探す子どもを、見守る親のように。

川畑 智 理学療法士

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かわばた さとし / Satoshi Kawabata

2002年、熊本リハビリテーション学院卒業後、国家資格「理学療法士」を取得。急性期・回復期・維持期のリハビリに携わる。病院・施設勤務の経験と、地域づくりやまちづくり、社会福祉協議会勤務の経験を活かし、水俣病発生地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年、株式会社Re学を設立。熊本県を拠点に、病院・施設における認知症予防や認知症ケアの実践に取り組むと共に、国内外における地域福祉政策携わる。

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