「お金盗ったでしょ」認知症の母が放つ言葉の裏側 「物盗られ妄想」のターゲットになりやすい人とは

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「つまりですね、私のものを盗ったでしょという言葉の裏側には、『間違っていたらごめんね』という意味が含まれているんです。つまり、あなたのことをとても信頼している、とお母さんは伝えたいんですよ」と、混乱している妹さんに理解してもらえるよう、なるべくわかりやすい言葉を選んで伝えてみた。

「だから週に1度しか来ないヘルパーさんよりも、毎日近くで介護をしてくれている妹さんを信頼するのは、お母さんにとって自然なことなんですよね」と口にしたその瞬間、妹さんの瞳のダムは、ついに決壊してしまった。

「なんだかお母さん、子どもみたいやわ」

私は、妹さんにその涙の理由を尋ねてみた。

「いつも母は、お姉ちゃんばかり可愛がっていたんです。フランスで色んな商品を見つけたり、向こうの企業との橋渡しをしたり、そんなふうに頑張っているお姉ちゃんを見て、『お姉ちゃんに比べて、あんたほんまに何もできへん子やね』と文句ばかり言われていたんです。二人きりの姉妹ですので、母には昔から何かにつけてお姉ちゃんと比べられていました」と、こぼれ落ちる涙を拭うことも忘れて、これまでのことを教えてくれた。

「だから、母から嫌われていることはあっても、まさか信頼されているなんて思いもしませんでした。今までいやがらせばかりしてくると思っていたけれど、私はその考えを変えなければいけませんね」と気づいてくれた。

そんな妹さんを見て、「お母さん、私の前ではあなたのこと、仕事も介護もようやってくれているって褒めとったよ。直接は言いづらいから、私に言ってたんやね。なんだかお母さん、子どもみたいやわ」と平井さんはにこやかに言った。

次ページ親と子の関係が逆転していく介護
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事