「お金盗ったでしょ」認知症の母が放つ言葉の裏側 「物盗られ妄想」のターゲットになりやすい人とは

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お母さんは、わざわざ海外から化粧品を取り寄せるくらい化粧が好きで、ドレッサーの前には、日本では決して買うことのできないたくさんの化粧品が並んでいるという。ことあるごとに妹さんはお母さんから、「ファンデーションが見当たらないんやけど、あんた使ったやろ?」とか、「財布のお金、あんた盗ったでしょ」とか、まったく身に覚えのない疑いをかけられる。

勝ち気な性格の妹さんは、「お母さんの化粧品なんて使うわけないじゃない! 勘違いしないでよ!」と応戦してしまうものだから、そのたびに喧嘩になってしまい、今では精神的にかなり追い込まれているようだ。

物盗られ妄想のターゲットになりやすい人

オンラインで初めて平井さん姉妹と顔を合わせたのだが、確かに妹さんを見ると、肌艶が良くなかったり、髪の毛がボサボサだったりと、画面越しではあるが、日頃の介護の疲れが見て取れる。下手すると5歳離れたお姉さんの方が、若く見られるのではないだろうか。

「母は、昔から私のことが嫌いだったんです。だから言いがかりばかりつけてくるんでしょうね。週に1度来てくれるヘルパーさんに対しては、外面の良さを発揮して、ニコニコするばかりでまったく疑いもしません。本当に、私に対してだけそういったいやがらせをしてくるんです」と言いながら、妹さんは必死に涙を堪えている様子だった。

私は少し迷ったが、物盗られ妄想のターゲットになりやすい人の特徴を正直に話すことにした。

「実は、認知症の方がそうやって誰かのせいにしてしまうときというのは、それが間違っていたときに許してくれる人にしか疑いをかけないものなんです。裏を返せば、お母さんは、あなたのことをとても大切に思っているんですよ」と切り出したのだが、妹さんはすぐには私の言葉の意味を飲み込めない様子だった。

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