高知東生「父は侠客、母は自死」の凄絶を見つめて 「おふくろを憎んでいた」謎だった自死の理由

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「逮捕されてからの2年間は、ずっと孤独でした。まだ、依存症から回復しようとする仲間たちとも出会っていませんでした。 その後、同じ苦しみを持った人間たちが語り合う自助グループに参加するようになったのですが、最初の頃は取り繕った自分がいたんですね。先んじて自助グループに参加している人たちは、正直に弱みも、恥も、つらさも、苦しさもすべて話していた。でも、僕はそんなことを話せるわけがないと思ったし、『この人たちと一緒にするなよ』……そんな気持ちも半分くらいあったんです」

しかし、回を重ねるごとに心が柔らかくなっていく自分がいた。山梨県にある薬物依存症の人たちの回復支援施設「山梨ダルク」を訪れると、ある一人の薬物依存症への告白を聞いて、大泣きした。

「俺一人じゃないんだって。自分は恥ずかしいことだと思ってさらけ出せないのに、目の前にいる人は向き合い、堂々と話している。温かさとなつかしさ、なんというか田舎に帰ってきたときのような安心感がありました。それからは、自分のことを段々と語れるようになりました」

高知東生 土竜
「恥も、つらさも、苦しさもすべて話せるようになった」と語る高知東生さん(撮影:今井康一)

恨んでいる人、傷つけた人、恐れている人

薬物依存から立ち直るプログラムに、「12ステップ」というアプローチがある。「12ステップ」は、薬物以外にも、アルコールやギャンブル、買い物などさまざまな問題行動・行為からの回復に効果があるそうだ。

そのプロセスの中で、「自分の過去と向き合う」というステップがある。たとえば、人生の中で恨んでいる人、傷つけた人、恐れている人を思い返し、自分の中で掘り下げていくという具合である。高知さんにとって母親は、自身を顧みたとき、そうした“瑕疵”のような存在だった。

「何度も自分のルーツがある高知県へ行きました。おふくろと同じクラブで働いていたおばあちゃんにお話を聞いたり、当時一緒によく遊んでいた先輩などに話を聞いたり、一つひとつ向き合っていきました」

高知さんは、今でも母親の姿を思い出すことがあると吐露する。「最初は母親じゃなくて、おばちゃんだったんです」。初めて会った光景が忘れられないと、呆れたように笑いながら振り返る。

「突然、祖母から『今からあなたにとって大切な人が会いに来るから』と言われました。しばらくすると、スーツ姿の男3~4人に囲まれた和装の女性が、日傘の影に隠れながら現れた。映画のワンシーンのようで、子どもながらに怖くなって、祖母の後ろに隠れたことを覚えています」

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