ディテールが伝わる情景描写や、登場人物の細やかな心象風景は、徹底的に自身と向き合い、現地で取材を重ねたからこその賜物だといい、他者に対する理解もあらためたと高知さんは語る。
「半生を振り返ったとき、家族、友人、自分にとってゆかりのあるいろいろな人々が頭に思い浮びました。中でも、僕が最初に気が付いた大きな後悔が夕子だった」
夕子は、高校時代の竜二を軸にした「シクラメン」に登場する、いわばヒロイン的な女性だ。夕子はとある理由から同級生から忌み嫌われ、所在を失っていく。
同調圧力に屈して素直になれなかった
「決められたように生きていくしかない人たちがいます。その人たちはその人たちで、精一杯、一生懸命生きている。でも、偏見や同調圧力によって、それが奪われることもある。僕自身、同調圧力に屈していた一人だった。なぜあのときもっと素直になれなかったんだろうと後悔しています」
折りしも、逮捕された後、高知さんは夕子のように白い目で見続けられた。あらためて向き合うからこそ、理解できる過去もある。恨んでいる人、傷つけた人、恐れている人――、高知さんは見つめ直しさらけ出すことで、今を再生、いや、新生しようとしている。
「僕がこうした活動をすることに賛否両論があることもわかっています。うれしい言葉もあれば、誹謗中傷のような言葉が送られてくることもあります。ですが、今はすべてを受け入れられる自分がいる。薬物依存から立ち直る中で鍛えられました(笑)。着実に自分が変わってきているという実感があるんです」
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