「コオロギパン」社長ブログが正論だけに残念な訳 「社会課題の解決」は簡単に降ろしてはならない

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そしてこの後、ブログは次のように続く。

「『脱毛をしたい人のニーズに応える』ことと『昆虫を食べたいと思う人のニーズに応える』ことは社会のニーズをビジネスで埋めているにすぎません。ただ、ビジネスの持続可能性という点で、投資家や事業提携を進める中では環境問題や社会課題を絡めることが必要で、そういう部分が過剰にメディアで評価されているので、怪しく見える節があるのかも、と今回気づきました」(原文ママ)

このブログには起業家として明らかな「失言」が、2つある。ひとつは「脱毛」に例えてしまっている点だ。わかりやすくするために、あえて身近なものを挙げたのだろうが、昆虫食がこれまで「世界的な食料不足」のように、「生死に関わる問題」としてメディア等で取り上げられてきた文脈があるだけに、その「軽さ」が際立ってしまっている。

サイト紹介のページでも「食糧問題」「持続可能」など真面目な文言が並ぶ。だが、直近のブログでは昆虫食を「脱毛」に例えたことで、与える印象も「軽く」なってしまった(出所:プラスミライ)

もうひとつは「投資家や事業提携を進める中では環境問題や社会課題を絡めることが必要」(原文ママ)と続く一節だ。この言葉が本音ならば、「環境問題などを訴えたのは、支援を得るための方便だったが、強調しすぎたかも」と言っているに等しいではないか。

ベンチャーの広報には「情」「理」が必要だ

では、一連の反発に対し、「推進派」はどのように対処すべきだったのか。

ベンチャー企業が広く社会の支持を得るには「社会課題を解決する」という目標を掲げることが必要だ。そうでなければ、ベンチャー企業は「どこにでもある、ただの中小企業」と大差ない。その目標の意義を、ベンチャー企業は「情」と「理」の両面から広報する必要がある。

まず「情」の面から、述べていきたい。「情」とは「この社長、本気で挑みたいのだな」と相手が「心から」納得できるかどうかだ。「情」に訴えるため、広報の巧みな経営者は自分の起業ストーリーを発信してきた。

具体例を挙げたい。給料や待遇などの条件ではなく、やりがいや環境で求人者と求職者をマッチングするビジネスSNS「ウォンテッドリー」を2013年に立ち上げた、仲暁子社長はサービス開始から約1年後、雑誌の取材に対し、起業の動機をこのように語っている。

大学卒業後にゴールドマン・サックス(GS)証券に入り高収入を得たが2年で退社し、一時は漫画家を目指した。
「GSは高収入ではあったけど、売り上げが減ればオフィスから人がいなくなる。ずっと勤められるとは思わなかった。一方、研究者だった母は収入は多くなかったけど、『仕事が楽しい、仕事が楽しい』って言っていたんです」
いまの仕事で目指しているのは、「仕事で心躍る人を増やすこと」と言う。
(AERA 2013年5月13日号)
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