"中国製"に誤算、電気バスは本当に普及するか 国内メーカー製増、中国BYD製に「規制物質」問題

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BYDジャパンの発表によると、同社製EVバスにはボルトやナット類の防錆材として六価クロムを含んだ溶剤を一部使用している。同社は「通常の⾞両運⽤においては、乗員・乗客および整備メンテナンス担当者への影響はございません」としている。

ただ、BYD製の車両を今春から運行予定だったバス各社には影響が出ている。2月27日から大型EVバス2台を運行する予定だった西武バス(埼玉県)は営業運転開始の延期を発表。同社は運行時期の見通しについて、「BYD社の調査結果を待っており、安全性について説明を受けたうえで社内で検討し、それを踏まえて決める」といい、現時点では未定だ。首都圏では、3月から大型EVバス3台を運行開始予定だった西東京バス(東京都)も延期した。

豪雨で不通となった鉄道をBRT(バス高速輸送システム)化して今夏開業するJR九州の日田彦山線BRT(BRTひこぼしライン)もBYD製の小型EVバスを運行予定だが、同社も3月に予定していたお披露目と試験走行開始を延期した。同社は「メーカーと情報交換して安全性について確認しつつ、今後については他社(バス各社)の動向も見て検討する」という。

すでに運行していたEVバスを運休している例もある。2021年12月にBYDの小型バスを4台導入し、JR京都駅や京阪七条駅、梅小路などを結ぶ路線「ステーションループ」で使用している京阪バス(京都府)は、今回の問題を受けて「お客様の心配があることを考え」(同社)、2月22日から運用を中止している。

BYDジャパンは、2023年末に納車を予定するバスは日本自動車工業会の自主規制に準拠した素材で製造・販売するとしている。また、すでに納車済みのバスについては、「お客様および関係する方々のご不安を解消できるよう、お客様と協議のうえ、当該部品の切り替え対応をさせていただく」(同社広報部)という。

十数年使うバス「2050年はすぐ」

「導入元年」に水を差す事態も起きているものの、政府が2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目標とする中、排ガスを出さないEVバスは今後も着実に増えていきそうだ。国土交通省は2023年度から5年間、バス事業者がEVバス導入のために充電設備などを取得した場合、設備や設置用の土地について固定資産税や都市計画税を軽減する特例措置を設ける。日本バス協会は、2030年にEVバスを全国で1万台に増やすことを目指している。

「バスは一度買うと十数年使うので、2050年はだいぶ先だと思っていてもあっという間に来てしまう」とバス業界関係者はいう。世界大手の中国製、追撃する国内メーカー製、そして中古バス改造とさまざまなEVバスが登場する中、「エンジン音のしないバス」に乗る機会はこれから増えていきそうだ。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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