2%インフレより植田日銀新総裁が目指すべきKPI 信頼回復の要は政策以上にコミュニケーション

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日銀に対する「信認・信頼」が大きく毀損している背景には、日銀の現体制による円安・物価高への硬直的な姿勢や、サプライズ連発で説明が少なかったコミュニケーションの問題がある可能性が高い。

コミュニケーションを重視する植田氏が率いることになる日銀の新体制では、この「信頼度DI」をKPIとして設定すべきであると、筆者は考えている。

金融政策だけでは「信頼度」を回復できない

2022年は円安が進行し、円安のピークとなった10月頃には「歴史的な円安、動かない日銀」(朝日新聞、2022年10月29日)といった論評が広がっていたように、低金利政策を維持する日銀に対する批判が集まった。この金利政策(金融政策)に対する評価は、日銀の「信認・信頼」に大きく影響しているとみられる。

なお、「生活意識に関するアンケート調査」は現在の金利水準に対する考えを毎回の調査で聞いているが、足元では金利が「適当な水準である」とした割合が大きく低下した(「低すぎる」の割合が大きく上昇)。新体制となる日銀は、金利水準が「適当な水準である」と判断されるように金融政策を調整していく必要がある。

もっとも、金利が「適当な水準である」とした割合と「信頼度DI」を比較すると、両者は連動しているのだが、足元(2022年12月調査)では「金利水準」の評価に対して「信頼度DI」が低い。このような傾向は2008年の調査でもみられたのだが、要するに現在の日銀には金利政策(金融政策)では説明できない信頼度の低下があるのだろう。

前述したように、植田氏起用の評価は高いため、新体制に変わることで信頼度が回復するという期待もある。しかし、インフレ高進による家計の不満は一段と高まっている状況にあり、当面は信頼度の回復に苦労する可能性もある。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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