日本銀行の正副総裁人事案が明らかになった。大きな「岸田リスク」になりうる事案として懸念されたこの人事だったが、当面は無難に見える。
次期「正副総裁」の人事は妥当
総裁に任命された植田和男氏は、報道によると、もともと本命の候補ではなかった。かつての日銀政策委員会の審議委員であるし、71歳と高齢でもある。
競馬に関連の深い本連載風に言うなら、引退して牧場にいるサラブレッドをG1レースに再び引っ張り出したような趣だ。だが「金融緩和路線を継続してくれそうなイメージの人」なので、市場に「ショック」を与えない人選だ。
日銀総裁の条件として、「学者」であることの必要性には疑問なしとしないが、自由民主党の麻生太郎副総裁が岸田文雄首相に述べたとされる「外国の中銀首脳に電話して、雑談から話に入ることができるような人」という国際性の条件を植田氏は満たす。無意識のうちに放談にもなるが、もっぱら雑談ばかりしている麻生氏にとって「本音の話は雑談以外にない」ということなのだろう。
植田氏は、速水優総裁時代に政策委員会の審議委員としてゼロ金利解除に「時期尚早である」として反対票を投じたことがあり、結果から見てこの判断は適切だった。急激な金融引き締めを市場に連想させない総裁だ。
2人の副総裁も妥当な人事だ。
前金融庁長官の氷見野良三氏は国際性も申し分なく、最近の官界には珍しい知性と教養を備えたチャーミングな人物だ。やや気は早いが、植田氏の次の総裁の有力候補だ。「仕組み債の販売を止めなかった金融庁長官」には目をつぶることにする。
もう一方の副総裁に任命された内田真一氏は、日銀プロパーで近年の政策の実行に深くかかわって来た人物で「能吏」の呼び声が高い。実務と組織の取りまとめの点で納得できる人選だ。
こうして正副総裁候補3名を並べて見ると、現在の政策を否定して急激な転換を図ろうとする、特大の「岸田リスク」は回避されたように見える。
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