発がん性リスクに40年間沈黙し続けた世界のGSK 潰瘍治療薬ザンタックは最も売れた処方薬だった

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短期利用に限りの推奨は名ばかりだった

それを示すヒントはある。2021年6月に行われた宣誓供述によると、原告の弁護士が「ザンタックが市場で売られていた約50年の間、グラクソがNDMAの存在について誰かに試験を受けさせようとしたことはあったか」と質問したのに対し、GSKのシニア医療アドバイザーは「私の知る限りではない」と答えた。

NDMAは黄色の液体で水に溶ける。臭気はなく味もほとんどない。がんとの関連性が指摘されたのは1956年で、肝臓に最も有害だ。70年代までに最も強力な発がん性物質と見なされていたニトロソアミン類の一つ。試験を受けたあらゆる種の動物にがんを引き起こした。NDMA1ミリグラム未満を1回投与しただけでマウスの細胞は変異し腫瘍ができる。人は2グラムで数日中に死に至ることもある。

81年夏に英国で1件の臨床試験が行われた。健康な男性11人が1日2回150ミリグラムのラニチジンを4週間投与された。グラクソの科学者は長期投与が胃の細菌に影響を与え、より多くの亜硝酸塩を生み出しニトロソアミンを形成し得る可能性があるかを調べようとして、実際にその可能性を見いだした。そして、その重要性は明らかでないと結論付けた。

FDAがその後確認した概要でグラクソの科学者は、高レベルの亜硝酸塩がニトロソアミンを形成し得るとし、そのほとんどが発がん性物質だと書いていた。だがそれまでの動物実験ではラニチジンの発がん性が示されず、従って人へのリスクの程度は推定できないとした。そもそもラニチジンの長期利用は想定されていなかった。科学者は「ラニチジンは短期利用に限り推奨され、それゆえに発がん性リスクがあるとしても最小限にとどまるだろう」と締めくくっていた。

だが結果的に多くの人がザンタックを数カ月、時には数年、場合によっては数十年も利用することになる。

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