発がん性リスクに40年間沈黙し続けた世界のGSK 潰瘍治療薬ザンタックは最も売れた処方薬だった
英国の小企業だったグラクソ・ラボラトリーズは「グラクソ大学」と呼ばれることもあった。重要な医薬品研究を行っていたが、収益性のある薬が生まれることはまれだったためだ。その同社の科学者がラニチジンと呼ばれる分子を作り出し、1978年に米特許を取得。これを基に開発した消化性潰瘍や胃炎を治療するH2受容体拮抗剤「ザンタック」(商品名)は世界で最も売れた処方薬となり、何年にもわたってグラクソの売上高の半分近くを占め、利益の大きな部分もこれに依存した。合併・買収(M&A)やスピンオフを経て現在の形である英GSKになるのも資金面で支えた。
GSKの現在の主力製品には、抗うつ薬の「パキシル」「ウェルブトリン」、帯状疱疹予防ワクチン「シングリックス」などがあるが、ザンタックの名前はない。ラニチジンは2019年、高レベルの発がん性物質と見られる物質で汚染されていることが判明した。偶然あるいは少数のバッチでの不備が原因ではなく、ラニチジンそのものから生じた。ザンタックの各メーカーと世界各国の保健当局者はリコールを行い、20年春には米食品医薬品局(FDA)が市場から完全に撤去させた。
発がん性物質「N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)」はかつてロケット燃料に使用され、今では研究室のラットにがんを発症させるためだけに利用される。ごく少量の摂取は有害でないとFDAは指摘するが、ラニチジンに相当な量のNDMAが含まれていることが試験で分かっており、どの形態でも安全ではなさそうだった。