認知症予防、実は「学校教育が重要」な脳科学的理由 教育年数と老年期の認知機能が密接に関連

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老年期の認知機能に関しては、アメリカのシカゴにおける60歳以上の2713人の調査で、大学や大学院へ進学し、学校での教育年数が長いほど全般的な認知機能やワーキングメモリ、エピソード記憶(経験した出来事に対する記憶力)が高いことが報告されています。

この研究では読書をする、新聞を読む、頭を使うゲームを行う(カードゲームやクロスワード、麻雀)といった知的活動が教育年数と老年期の認知機能の関係に影響することが報告されています(厳密には少し意味が異なりますが、教育年数が短くても知的活動が多いと、教育年数が長い人と同じように老年期の認知機能が高い傾向にあるというような意味合いになります)。

脳容積や脳機能の研究では、教育年数が長いほど、島や前部帯状回といった部位の容積が大きく、認知機能や記憶と関係する前部帯状回と海馬のネットワークが発達していることが報告されています。

また、教育年数が長いほど加齢による脳萎縮が起こりにくい(脳の老化が抑えられる)可能性が示唆されていますが、この加齢による脳萎縮の予防効果については否定的な研究もあります(4422人を対象とした大規模研究で、教育年数が長い人ほど大脳皮質の容積が大きかったものの、加齢による脳萎縮のスピードに違いは見られなかったことが報告されています)。

教育年数が長いと予備能が高い

それ以外には、教育年数が長いと脳に障害が生じたときにも認知機能が保たれる、つまり予備能が高いと考えられています。

加齢性変化や生活習慣病では慢性虚血性変化や非特異的白質病変と呼ばれる大脳白質の変化が生じ、脳内の情報伝達機能の低下および認知機能低下と関連するのですが、教育年数が長い人はこの大脳白質に障害が生じても、認知機能が保たれる傾向があります。

約1800人の脳MRIドック受診者を解析した私の研究では、灰白質の萎縮が進行していたとしても、認知機能が低下していない人は教育年数が長いという特徴がありました。

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