認知症予防、実は「学校教育が重要」な脳科学的理由 教育年数と老年期の認知機能が密接に関連
学校のテスト勉強で脳が変化した研究も紹介します。これは医学生38人を対象とした研究で、試験の3カ月前と試験の直後および試験3カ月後の脳をMRIで調査したところ、試験直後には頭頂葉の一部で灰白質が約2.5%増大し、3カ月後にはこの増大が少しだけ元に戻ったという内容になります。また、海馬は試験直後に増大していただけでなく、試験3カ月後にさらに増大していたという報告です。
一方で、後頭葉の一部は試験後に小さくなっていました。脳の一部が増大するときは引き換えに他の脳部位が小さくなるという現象が生じ、環境や状況に適合するように脳の形が変化すると考えられています。
このように、学校教育は脳に大きな影響を与えます。幼少期や思春期は脳が形成される大事な時期です。近年の脳内ネットワークの研究では、2~3歳ごろの脳内ネットワークが最も複雑で、思春期にかけて次第にそのネットワークが間引かれて、脳内のネットワークが安定してくるといったことも考えられています。
このような時期にいい刺激を脳に与えることは、老年期になったときにいい方向へ影響してくると考えられます。学校教育以外にも読書やゲームなどの知的活動、運動や楽器演奏、自然と触れ合うといったことも大事です。
高齢者は楽器演奏が脳の老化を防ぐ
楽器演奏を脳科学の観点から考えると、楽器を演奏するための運動関連領域だけでなく、楽譜や楽器を見るための視覚関連領域、奏でている音を聞くための聴覚関連領域、楽譜を覚えるための記憶関連領域、さらにはそれらを取りまとめる高次認知機能関連領域などさまざまな脳領域にまたがる機能を統合的に活用することが求められます。
子どもの習い事として人気の楽器演奏ですが、高齢者において楽器演奏が脳の老化を防ぎ、流動性知能やエピソード記憶、注意制御、ワーキングメモリ、感情認識能力といったさまざまな脳機能を高めることが報告されています。
脳MRIの研究では、MRIで脳容積を計測する研究が盛んになってきた初期から音楽家の脳は注目されており、プロの音楽家では楽器演奏の動作に関わる運動野や音を聞き取る聴覚野の灰白質が発達していることが報告されていました。
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