認知症予防、実は「学校教育が重要」な脳科学的理由 教育年数と老年期の認知機能が密接に関連

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また、ブリティッシュ交響楽団の音楽家を対象とした研究では、ブローカ野という脳部位が発達しており、発達の程度はオーケストラでの音楽活動年数が長いほど大きいことが報告されています(ブローカ野は言葉を発する運動性言語中枢と考えられ、例えば脳梗塞などでこの部位が障害されると言葉を発することが難しくなるのですが、近年の研究ではさらに細分化した機能があり、音楽家との関連がいくつかの研究で報告されています)。オペラ歌手の脳を調査した研究では、右大脳半球の体性感覚野が発達していることが報告されています。

このようなプロの音楽家でなくとも、楽器演奏は脳にいい影響を与えると考えられています。31人の未経験者の青年が30分間のドラム演奏のトレーニングを週3回行ったところ、8週間後に運動の調節機能に関わる小脳の灰白質の増大および白質の情報伝達の向上が見られたと報告されています。

ほかに興味深い研究としては、熟練の音楽家に見られる脳の発達はトレーニング開始後に比較的早く発達が見られる領域もあれば、発達するまでに長年を要する領域もあり、脳部位により発達するまでのトレーニング期間が異なってくる可能性を示唆した報告があります。

このように、音楽活動は老年期における広範な脳機能の維持や脳の老化防止効果だけでなく、成長期における脳の良好な発達に効果が期待できます。楽器の種類による脳への影響の違いを検討した脳MRI研究はなく、興味のあるもの、楽しめるものに取り組むのが良いと思います。オペラ歌手の研究からは楽器演奏だけでなく、歌唱でも効果が期待できます。

トレーニングを始める時期によって脳の発達が異なる

少し話は変わりますが、音楽活動の脳MRI研究ではトレーニングを始める時期によって脳の発達が異なるという研究がいくつか報告されています。

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例えば、熟達したピアニストの中でも、ピアノを始めた時期が7歳未満か7歳以上かで学習した運動動作の長期記憶に関与する脳部位(被殻)の発達が異なる、先程紹介したオペラ歌手の研究では発話動作の発達が落ち着く14歳より以前にトレーニングを開始したかにより特定の脳部位(体性感覚野)の発達が異なる、といったことが報告されています。

これらの研究で興味深いのは、ピアニストやオペラ歌手の特定の脳部位は晩年に始めたほうが発達しているという点です。

ピアニストの研究では7歳未満で始めたほうが利き手ではない指のリズム運動能力が高いことが報告されており、一定の年齢まででないと鍛えることが難しい能力がある一方で、晩年に始めても努力次第では異なる脳部位を発達させ、始める時期が遅かったデメリットを補える可能性があります。

●音楽は脳の発達だけでなく、脳機能の維持や老化防止が期待できる!
渡邉 啓太 京都大学特定准教授、医学博士

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わたなべ けいた / Keita Watanabe

1982年愛媛県生まれ。産業医科大学医学部卒業。放射線科医、医学博士。産業医科大学若松病院放射線部部長、産業医科大学助教、放射線科医局長、熊本大学および米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校留学を経て、現在は京都大学特定准教授として脳MRI研究に取り組む。これまでに日本医学放射線学会総会のCyPos賞、日本磁気共鳴医学会大会の大会長賞を受賞し、責任著者を担当した論文は日本医学放射線学会雑誌の2020年度最優秀論文、2021年度優秀論文に選出されている。

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