アイデアが出ないとき、脳科学的に「散歩が効く」訳 ぼんやりしたり、仮眠を挟んだりするのもOK
ここでは、統計学習を通して「ゆらぎ」が起こる過程とモチベーションとの関係について述べます。
脳は新たな情報を受けたとき、まずそれを把握し、将来同じ情報が来ても理解できるように情報に対する予測精度を上げて不確実性を下げようとします。不確実性の減少は脳への報酬となるため、「不確実性を減少したい」という潜在的なモチベーションは、統計学習の基本となります。
統計学習のモチベーションを人間の思考で考えてみると、「収束的思考」に相当します。収束的思考とは、ある問題について唯一の解(結論)を追究する思考を指し、論理的思考や具体的思考とも密接に関係しています。答えが1つしかない問題を解くときや、目的地への最短距離を考えるときなど、意識的に行っている思考です。たくさんあるアイデアやプランを絞り込み、唯一の最適解に収束していくため、不確実性は下がるほうへ向かっていきます。いわゆる、脳の情報処理の効率化や最適化です。
収束的思考と拡散的思考が「不確実性のゆらぎ」を生む
統計学習のモチベーションは、不確実性の減少だけではありません。不確実性を下げて喜び(報酬)を得るためには、それまで知らなかったこと(不確実な情報)が必要です。そのため不確実性が下がりきった状態になると、脳はチャンク(圧縮)された確実性の高い情報の塊をあえて壊したり、別の塊をくっつけたりして不確実性の高い情報を生成します。未知の世界への興味や創作意欲などが相当するでしょう。
このモチベーションを「拡散的思考」といい、収束的思考のように1つの結論を追究するのではなく、新しい発想を無数に拡散させる思考を指します。拡散的思考では、論理や具体性よりも、できるだけ多くのことを考えるので、不確実性は上がっていきます。芸術作品の創作や新しいアイデアの提案など、クリエイティブなことを行うときに重要な思考です。創造性の高さを測る「創造性テスト」では、この拡散的思考力を指標にすることがよくあります。
このように脳の統計学習には、不確実性を下げたいという収束的思考に関連したモチベーションと、不確実な情報に対する知的好奇心など拡散的思考に関連したモチベーションという、相反する2つの力が互いに引き合うような形で存在しています。
そしてこの相反する力が「不確実性のゆらぎ」を生み出します。このゆらぎは芸術的感性や創造性に多大な影響を与えるとされているように、モチベーションをコントロールするカギとなるのです。
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