リーダーとは自分から先にケツを出すことだ 「ジヌよさらば」の松尾スズキ監督に聞く

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「若手はどうにかして育てなきゃいけない」(撮影:梅谷 秀司)

――やりたいことをやっていたはずなのに、規模が大きくなるにしたがって、多くの従業員も抱えるようになったとか、企業経営者の中にも同じように悩んでいる人もいると思います。

それはありますね。もうひとつ小さな仕事を持つべきなのかとか、そんなことも考えますけどね。今持っている集団だけでものを考えると、おっさんとおばさんのものしか作れなくなる(笑)。それだと自分の首を絞めてしまうことになっちゃいますからね。ただ、若手はどうにかして育てなきゃいけないなと思ってるんですけどね。

演劇界はスターがあまりにも出なさすぎる

――それは日本の演劇界のために?

これは悔しいことなんですが、演劇をやるにしても、テレビの人を呼んで来なければ成立しないと言われてしまう。やっぱり演劇界はスターがあまりにも出なさすぎるんです。正直な話、阿部サダヲ以降、大人計画からスターは出ていないですね。20年間以上、溝が開いていることに僕は危機感を持っています。

いい作品であってもお客さんが入らないことがありますからね。地味な俳優や、演劇だけでしかやっていない俳優だと呼べる客足も限られてしまう。それでも去年は劇団☆新感線と組んで、ほとんど劇団の人間だけで芝居をやって成功したというのは、ひとつの指針にはなっているかと思います。ただそれも7万人くらいを呼んでいるような規模の話なので、そうなるとまたできることも限られてくる。会場が大きいから、小さいことをやっても伝わらない。そういうジレンマはつねにありますね。興行的に成功させることと、やりたいことの乖離。ここをどうやって埋めればいいのかはいつも考えています

――そういう意味で映画というのは、芝居でできないことを補完するという意味合いがあるのでは?

それはありますね。ただ、映画はいつだって映っているものがリアルですからね。ちょっとでも何かをグレードアップしようとすると、ガンと資金が跳ね上がってしまうんです。きっと僕らが芝居でやろうとしてることを映画にしたら、10億円は軽く超えてしまう(笑)。だからむしろ映画でできないことを芝居でやっているという言い方のほうが正しいのかもしれません。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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