ユニクロの買い物客は、なぜ「ゲスト」なのか 顧客を指す言葉が変わったことの意味とは?
企業向けに書き言葉や話し言葉の効果的な使い方を指南する会社、シンタクシス(ニューヨーク)のエレン・ジョビン社長は「私があなたの家に来たゲストなら、せめてお茶とクッキーくらい出してもらわなければ」と言う。
「それにテーブルについておしゃべりする前に、洗面所で手を洗ったり、タオルを使わせてもらえなければおかしい。(だが)クレジットカードの決済に、そうしたくつろぎの感覚はない」
ゲストという言葉が使われるのは、温かい気持ちや歓迎といった雰囲気を伝えるためだ。だがどんな業界でも通用する言葉でないことは、顧客対応のプロも認めるところだ。「車のエンジンオイル交換をする業者なら、たぶん『カスタマー』のほうが適切だ」と、ミシガン州の顧客対応コンサルタント、クリスティーナ・イービーは言う。
どこかの大手コンサルタント会社がゲストという言葉を流行らせるようなリポートを出したというわけでもなさそうだ。言葉の変化は徐々に有機的に進んでいった。
実際にコーヒーを振る舞った伝統
小売りアナリストのマーシャル・コーエンが、ホテル以外の場所で「ゲスト」という言葉が使われているのを初めて聞いたのは何年も前、コネティカット州の高級紳士服店「ミッチェルズ・ファミリー・オブ・ストアズ」だったと語る。ちなみに小売りチェーンではターゲットで使われているのが最初だったと思うと言う。
ミッチェルズ・ファミリー・オブ・ストアズのジャック・ミッチェル会長によれば、同社では1958年の創業時から顧客のことを「ゲスト」として扱い、実際そう呼びかけてきたという。
「始めたのは母だ」とミッチェルは言う。「母はいつもそう言っていた。自宅に来た友人を歓迎するような感じだった」
コネティカット州ウエストポートで第1号店を開いたミッチェルの両親は、自宅から毎日コーヒーポットを店に持参し、「ゲスト」に振る舞っていた。5店舗を展開している現在でも従業員は顧客を「ゲスト」と呼ぶが、ほかの表現を使わないわけでもないらしい。
だが「ゲスト」という呼び方を最初に始めたのは、「地上でいちばん幸せな場所」を作った例の会社かも知れない。
ターゲットの広報によれば、同社で「ゲスト」という呼称が使われ始めたのは1993年のこと。もてなしの心を大切しているほかの企業の影響を受けたのだという。それはいったいどこの会社かと聞いたところ、「ディズニーです」という答えが返ってきた。