ユニクロの買い物客は、なぜ「ゲスト」なのか 顧客を指す言葉が変わったことの意味とは?
そこで私たちはディズニーにも話を聞いた。同社の広報が調べてくれたところ、1955年にカリフォルニア州でディズニーランドがオープンする直前、従業員研修で「ディズニーランドで働くすべての人は『カスタマー』の代わりに『ゲスト』という言葉を使うように」との指示があったという。
その後長きにわたり、ディズニーは「ゲスト」という表現を胸を張って世間に広めてきた。ゲストを知る技術『ゲストロジー』に1章まるごと割いた本『ビー・アワ・ゲスト』(邦訳『ディズニーが教えるお客様を感動させる最高の方法』日本経済新聞社刊)まで出版した。ちなみにディズニーは、1991年の映画『美女と野獣』にも『ビー・アワ・ゲスト』というタイトルの曲を登場させている(邦題は『ひとりぼっちの晩餐会』)。
1980年代にディズニーは、同社の顧客サービスをさまざまな業種の幹部社員向けに教える施設「ディズニー・インスティテュート」を開設。最近ではゼネラル・モーターズのディーラーが研修を受けたという。
初めはわざとらしくても、それに見合うようになるはず
『ビー・アワ・ゲスト』の本にはこう書かれている。
「当初はディズニーの言葉づかいはわざとらしく、おかしいように感じられるかも知れない。だが言葉は人々の心にイメージや、それに見合った想定を生み出す。ゲストという言葉を例に取れば、不幸せなゲストと不幸せなカスタマーでは、従業員の心に生まれるイメージは大きく異なる。ゲストは歓迎すべき訪問者で、おもてなしをする相手であるのに対し、コンシューマーは統計だ。ゲストに対しては、相手をハッピーにしなければという思いが強くなるはずだ」
ネットやスマートフォンを使った買い物が普及するなかで、そうした考えは多くの企業に広がっている。対面式で商売をするなら客を「ゲスト」どころか「VIP」待遇すべきだと言う人さえいる。
バージニア州フェアファクスのバナナ・リパブリックの店舗で「ブランド大使」として働くレズリー・ハミルトンは「スタッフにはお客様に分かるように『ゲスト』と言うよう指示している」と語る。「私たちスタッフは単なるサービスではなく、豊かな体験を提供するためにいる。みんなが安売り店やネットストアに行くご時世に、私たちにできるのはこの2つだ」