多くの人は、それこそ「重要な局面だから総裁の手腕が問われる」、などと思うかもしれない。
それは間違いだ。
黒田総裁に見られたように、サプライズを演出する政策には、カリスマが必要である。一方、やることは決まっていて、それをできる限り丁寧に実施する。それには、カリスマはいないほうがいい。日本銀行の実働部隊はもちろん、チーム全体が一致団結して行うことが必要となる。
そのときに、カリスマは邪魔になる。みなが自分の頭で考え、「自分が戦線の最前線にいる」という意識を持つ必要がある。カリスマ総裁がいれば、トップに従う、ということにしかならない。思考しない。自分で考えず、追随するだけだ。
とにかく、やることは決まっている。後は、いつどのように動くか。そして、そのときに、細かい戦術をどうするか。現場を中心に目立たない工夫を重ね、どうやってショックを少しでも小さくするか。それには現場が重要だ。現場とトップと、その間のすべての人々が一体化することが必要だ。そのためには、トップは目立たないほうがいい。
黒田総裁とパウエル氏の違いとは?
しかし、「コミュニケーション能力は重要ではないか?」という人がいるだろう。コミュニケーション能力の高いトップが重要だ、と。それはそうなのだが、そもそも現状はコミュニケーションだけでどうこうできる状況でない。また「コミュニケーション能力」といっても、危機においては、何をしても市場関係者からも、メディア関係者からも「サンドバッグ」のように攻撃されるものだ。
もともと「コミュニケーションが得意」の得意の意味は、普通「アピールがうまい」、ということであるから、「いい局面で宣伝するのが上手」ということだ。
この点、黒田総裁は、今では木で鼻をくくったような、いかにも財務官僚という対応が非難されている。だが、異次元緩和を打ち出した当時は、派手に効果をアピールすることに成功していた。実はアピールするコミュニケーション能力は高いのである。
しかし、逆に追い込まれた受け身の今は違う。パウエル氏のように、一見ぱっとしないが、誠実で、サンドバッグとして叩くのも気がひけるような地味な感じがいいのだ。
今、必要なコミュニケーション能力は、会見で記者たちを圧倒することではない。市場全体と対決して、市場をひれ伏せさせることでもない。
金融政策修正、総裁交代という移行期の混乱に付け込んでボロ儲けしようとしている一部の投機家を孤立させ、普通の多数派の市場の取引者、投資家を味方につけることだ。もはや、市場もメディアも敵ではない。彼らとも一体になって、日本の金融市場、日本経済を壊すことによって儲けようとしている奴らを孤立させ、追い出すことだ。
そのためには、市場、メディアにサンドバックとしてまず叩かれてもオール日銀として我慢強く対応することが必要だ。その中で、オール日銀、オールジャパンというチームが自然に作り上げられる、というのが目指すべき道なのだ。
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