彼は、歴代の議長であるアラン・グリーンスパン氏、ベン・バーナンキ氏などと異なり、何の色も特色もない。地味すぎる。だから「パウエル色」というのはまったくない。
だから市場関係者は、パウエルという個人に注目するのではなく、経済の統計指標、雇用統計、GDP、インフレ率にひたすら注目するのであり、FOMC(連邦公開市場委員会)の声明文や、政策決定メンバー全体としての将来金利見通し(ドットチャート)が注目されるのである。パウエル個人はどこにも出てこない。
インフレが止まらず、FEDは危機に追い込まれた。取れる道は限られている。ともかく、インフレを抑え込むために利上げをし続けるしかない。インフレが収まったら、引き下げる。迷いようがない。手遅れになったから、闇雲に上げるしかない。そして、インフレが収まったら下げる。単純だ。しかし、それ以外ない。それほど追い込まれたということだ。
イールドカーブコントロールを止める
一方、日銀が置かれている状況はアメリカに比べてはるかに困難だ。
はっきりとした急激なインフレではない。インフレ率は日本にしては高いが「何が何でも止めろ」、というコンセンサスができているわけではない。しかし、インフレは起きている。どう動くか難しい。
もちろん、より難しいのは、長期国債を抱えすぎて身動きが取れなくなった現状だ。買うのをやめれば、国債価格は暴落する(金利は急上昇)する。しかし、これ以上買い続けることも、もはややりたくてもできない。国債がマーケットに存在しなくなってしまったのだ。
つまり、困難すぎて、何もできない状況だ。したがって、今後の道は、ほぼ決まっている。
イールドカーブコントロールを止める。長期国債利回りの上昇を許容するが、金融緩和は継続する。つまり、短期金利はマイナス金利を維持するか、もしくはゼロに戻し、マイナス金利は解消するが、それ以上の利上げは当面しない。
普通の量的緩和に戻ることになるが、国債の買い入れ額を自分で決めることはできなくなる。長期金利が上がりすぎないように、しかし、国債市場は一定の機能を発揮するような状態にする。そうなると、日銀が国債買い入れ量を選ぶことなどできない。それは自然に決まってくるだろう。
後は、こうした一連の政策を、どのような順番で、どのくらい丁寧にやるかどうかだ。
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