任天堂創業家が東洋建設に提案した買収案をめぐり、両社は昨年5月からおよそ8カ月にわたって協議。事態が進展せず、任天堂創業家は今年6月の東洋建設の株主総会で、同社社長らの再任に対し反対を表明。水面下で繰り広げられてきた攻防戦の内実に迫る。
2022年12月5日。小雨模様の肌寒い1日となったこの日。東京・神保町のオフィスビル11階にある、マリコン(海洋土木)大手・東洋建設の本社の応接室で、2人の男が対峙した。
ひとりは任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)の代表者である山内万丈氏。任天堂の中興の祖として知られる故・山内溥(ひろし)氏の孫(戸籍上は溥氏の次男)だ。一方は、東洋建設の武澤恭司社長。建築の営業畑を歩んできた、たたき上げである。
YFOは2022年3月ごろから東洋建設株を買い集め、5月の時点で27%超の株式を持つ筆頭株主となった。5月18日には、東洋建設の経営陣の合意を前提に、同社に対して「友好的」な買収を提案。1株1000円の価格を提示し、完全子会社化を見据える。
YFOは先進的な技術を持つスタートアップへの投資を基本とする一方で、旧態依然とした「レガシー産業」企業の変革を促す活動も重視している。
12月5日会談で完全に決裂
この買収提案以降、両社は実に250日もの間、回数にして20回、時間にして40時間以上もの協議を重ねてきた。当初は事務局による話し合いだった。だが、買収提案に対する見解の相違が解消されることがなく、2022年10月以降は両社のトップ(代表と社長)による協議に移行した。
12月5日は、5回目のトップ会談だった。だが、この日はそれまでのお互いの話をじっくりと聞く紳士的なやりとりから一変。東洋建設が事前に提示した「全株式取得のご提案に賛同することはできない」と記述した非公式の書類に対し、万丈氏が気色ばんだ。「われわれの提案を受け入れないとは、どういう見解なのですか」「(東洋建設は)ガバナンスが効いていない」。結局、万丈氏は早々に席を立ち、30分ほどの短時間で会談が終了した。
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