確かに、2022年に許容範囲を大きく上回った高インフレについては、同年10月から伸びが落ち着いてきた。労働需給の逼迫に起因する賃金加速も同様に和らぐ兆しがあることはよい兆候だ。
ただ、2%インフレへの回帰をもたらすほどに、賃金・インフレが十分減速するには相応に時間がかかるだろう。
今後、アメリカ経済の減速が大きくならずに賃金が急ピッチに低下するのが「ベスト」の展開である。だが「経済活動の失速を経て賃金が低下する」、というのが蓋然性が高いシナリオではないか。
もしそのシナリオであれば、今は緩やかに下方修正されているアナリストによる企業業績の想定は、今後大きく低下する可能性があると筆者は慎重に考えている。先述したとおり、FRBの利上げ打ち止めが近づいているとしても、それだけでアメリカ株市場が持続的に上昇するとは限らない。
アメリカと日本の賃金上昇率はまったく異なる
これまで述べてきたように、アメリカでは2022年に上昇しすぎた賃金が、これからどの程度抑制されるかが、株式市場の動向に大きく影響する。
ところで、日本でも賃金の動向が注目されているが、低い賃金が本格的に上昇するかどうかが問題なままである。
アメリカやイギリスでは、賃金がインフレを高めるまで上昇したが、日本ではまったく異なる。具体的には、2022年後半のアメリカの賃金指数(アトランタ連銀算出)は前年比+6%台だが、同時期の日本の賃金(所定内給与)は前年比+1%台前半である。
日本でも、企業による賃上げの動きが報じられており、今年の春闘賃上げ率(定期昇給を含む)は3%前後まで高まるとみられる。もし、これが起きれば、1990年代半ば以来の大きな変化である。金融緩和の刺激効果がようやく賃金まで波及する前向きな動きだが、「2%インフレの安定的な実現」を確実にするほどの賃金上昇には至らないのではないか。
海外中銀は大幅な利上げを行い、日本でもエネルギーや食料品を含めたインフレ率では「40年ぶりの物価高」となり、これらを理由に「日本銀行の金融緩和は限界にある」などとメディアで言われている。ただ、サービス価格や賃金上昇率の状況がまったく異なるのだから、海外中銀と日銀の対応が異なるのは当然だろう。
現在、岸田政権は「物価高を上回る賃金上昇」を目指している。これを後押しする対応がいくつか挙げられているが、賃上げと幅広いサービス価格上昇を伴いながら2%インフレを実現させるまで、金融緩和を徹底するのは大前提になるだろう。仮に、日銀の次期執行部の対応が大きく変われば、岸田政権が目指す賃上げ実現は、かなり難しくなるだろうと筆者は考えている。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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