米紙の行くべき街に「盛岡」日本人が知らない魅力 NYTで紹介、個性ある「個人店が光る」大人の街

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ナガサワコーヒーが注目され、真冬にもかかわらず行き交う人が増えているという上田通り(写真:藤野里美さん提供)

店のある上田地区は、岩手県屈指の名門・岩手県立盛岡第一高校や岩手大学などがある文教地区。一見、何気ない住宅地だが、学生むけの定食店や盛岡人のソウルフード「じゃじゃ麺」の店なども。

ナガサワコーヒーのある上田通りには、盛岡人の愛する郷土菓子「お茶餅」を扱う団子店、古着屋、昔懐かしい雰囲気の喫茶店、居酒屋……、洗練された趣のある河南地区とは違った盛岡の一面を楽しめる。

上田地区にある岩手大学農学部農業教育資料館(重要文化財 旧盛岡高等農林学校本館)。宮沢賢治も学んだ(写真:鈴紋/PIXTA)

ナガサワコーヒーの隣に店を構えるのは、「すっぱい林檎の専門店。」。オーナーの藤野里美さんは盛岡のお国柄を「盛岡の人たちは暮らしの中に“推し”を持っている」と分析。

ギフト用のりんごを送る際の推しのりんご農家、推しの喫茶店、推しの団子屋、推しのパン屋……。盛岡冷麺やじゃじゃ麺にも推しの店があり、推しについてそのこだわりや推しポイントをアツく語ることができるのが盛岡人だという。

「地域の人たちが気に入って推してくれるからこそ、盛岡では個人経営の店がやっていける」(藤野さん)。同規模の人口30万人前後の都市と比べて、個人経営の店が多いと言われる所以はそのあたりにありそうだ。

宮沢賢治の『注文の多い料理店』を出版した盛岡市の「光原社」。敷地内には喫茶「可否館」がある(筆者撮影)

コロナで疲弊する観光・飲食

今回の「52カ所」を機に、インバウンドや国内観光客増加への期待も高まる。全国の都道府県の中で感染者確認が最後だった岩手県では、いまだに外食を避ける傾向が強く、盛岡の飲食店もこの3年間は厳しい経営環境に置かれていた。それだけに、「52カ所」選出は、観光による外貨獲得の絶好のチャンスだ。

東家の馬場社長は「一過性のブームに終わらせないためには、個々の店の頑張りだけでは限度がある。観光客を受け入れる体制づくりには行政の支援も必要」と指摘するが、不安も感じている。

1月12日に「52カ所」が発表され、すぐさまSNSで話題となったが、盛岡市のTwitterが反応したのが16日、市長のコメントが市のサイトに掲載されたのが20日、と出遅れた感があり、観光にかかわる人たちの間からは「行政はこのチャンスを活かす気があるのか」と不安視する声も上がっているという。

他方、市中心部にあった医大付属病院が隣町に移転し、空洞化が懸念されるなど、まちづくりそのものの課題もある。おりしも今年は盛岡市長選挙が行われる年。世界的メディアの報道は、住民にとっても観光客にとっても魅力的なまちであり続けるための議論を深める種をまいてくれたのかもしれない。

手塚 さや香 岩手在住ライター

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てづか さやか / Sayaka Tezuka

さいたま市出身。毎日新聞の記者として盛岡支局や学芸部で取材経験を積んだ後、東日本大震災からの復興の現場で働くため、岩手県釜石市に移住。復興支援員として活動し、2021年にフリーランスとして独立。一次産業や地方移住の分野を中心に取材・執筆しているほか、キャリアコンサルティングや地域おこし協力隊の支援活動も行っている。

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