アメリカと中国「医薬品・バイオ」巡る攻防の本質 日本も自ら考えなければならない「毒と薬」

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βラクタム系抗菌薬は、日本がサプライチェーンに脆弱性を抱える医薬品の一部でしかない。厚生労働省は2019年から製薬業界や専門家とともに「安定確保医薬品リスト」の作成を進め、最優先で取り組みを行うべき医薬品として21成分を選び出した。このリストにはセファゾリンなど抗生物質製剤のみならず、全身麻酔剤、血液凝固阻止剤、ホルモン剤なども含まれていた。

さらに、チョークポイントは需要、開発、加工、物流などの状況に応じてダイナミックに変化する。

経済安全保障のダイナミズムに対応するため、今後ますます重要になるのがサプライチェーン・マッピングである。

アメリカによる対中政策、次の一手は何か。そのヒントとして注目されているのが、アメリカ議会が設立した米中経済・安全保障調査委員会(USCC)の報告書である。2022年のUSCC報告書はバイデン政権にサプライチェーン強靭化のための組織新設を求め、継続的なサプライチェーン・マッピングをその主要な役割に据えた。調査対象として例示されたのは半導体、レアアース、そして医薬品と原薬である。

日本も直面する「毒の抜き方と薬の煎じ方」

日本政府も、これからサプライチェーン・マッピングを通年で実施してはどうか。そのうえで、安全保障上の脅威と守るべき国益に照らし、真に重要な物資を精緻にターゲティングしていくべきである。ターゲティングが狭すぎれば有事への備えとならないし、逆に広すぎれば支援が分散し、過度な産業保護はイノベーションを阻害しかねない。政官財学でタスクフォースを組み、特定重要物資を精緻かつダイナミックに絞り込み、アップデートしていくことが肝要である。

日本は、医薬品サプライチェーンに抱えた脆弱性という「毒」を抜き、サプライチェーンを強靭化しつつ、バイオ産業を日本経済繁栄のための「薬」とすべく煎じ詰めなければならない。その毒の抜き方と薬の煎じ方は、日本が自ら考える必要がある。

(相良祥之:国際文化会館/API主任研究員)

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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