アメリカと中国「医薬品・バイオ」巡る攻防の本質 日本も自ら考えなければならない「毒と薬」

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第2に、バイオは産業として有望であり、社会経済の繁栄をもたらす可能性に満ちている。コロナ危機においてファイザーとモデルナが供給したmRNAワクチンは、世界の人々の命と健康を守るだけでなく、関連する製薬企業に莫大な収入をもたらした。それが各社において次の医薬品開発の原資になっている。

さらにカーボンニュートラルと化石資源依存脱却の観点からも、バイオものづくり(biomanufacturing)は注目を集めている。2022年9月、バイデン政権はバイオテクノロジーとバイオものづくりのイノベーションを推進する大統領令を発出した。ホワイトハウスは、バイオものづくりが今後10年以内に世界の製造業の3分の1以上を占めるようになり、その市場規模は約30兆ドル(約3900兆円)に達するという予測を示した。

いまアメリカでは官民あげてバイオへの投資が急拡大している。その規模は合成生物学(synthetic biology)ベンチャーへの民間投資だけでも2021年で約2兆円におよび、2019年から5倍に急増した。

いわば、アメリカにとって毒にも薬にもなるのがバイオなのである。

日米貿易摩擦の教訓

日本もアメリカと足並みを揃え、バイオ技術の育成や保護に本腰を入れている。しかし日本とアメリカで守るべき国益は異なる。サプライチェーン強靭化についても、何を対象に、どんな政策を打つのか、同盟管理のアジェンダとして調整が必要になっている。昨年10月のスパコンと先端半導体をめぐるアメリカの対中輸出規制は、その典型的なものである。

振り返ってみれば1980年代、日本とアメリカはスパコンや半導体をめぐり衝突した。当時、在米大使館、外務省経済局、北米局で日米貿易摩擦の最前線にいた薮中三十二・元外務事務次官は、日米貿易摩擦について2つの教訓を指摘している(『外交交渉40年』)。

1つ目は、ワシントンで貿易問題が火を吹くとき、火元はアメリカ議会だということである。それは議会が関税の引き上げ権限を持っているためであった。通商代表部(USTR)は議会の1974年通商法により設立された。

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