アメリカと中国「医薬品・バイオ」巡る攻防の本質 日本も自ら考えなければならない「毒と薬」

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つまり医薬品のサプライチェーンでは、中国が、原薬と原材料というチョークポイント(急所)を握っている。それは原材料の大半が化学物質であることに起因している。

大半の化学物質はコモディティーであり、最先端の技術や施設がなくても生産できる。しかも工場の爆発リスクなど安全面の課題もある。2019年には中国の江蘇省で化学工場が爆発する事件が起き、多くの原薬工場が生産停止に追い込まれた。さらに、化学物質の生産は環境負荷が高い。中国でも環境規制は強化されてきた。それでも、中国の原薬や原材料は安い。経済合理性を追求する形で、中国というチョークポイントを残したまま医薬品のグローバルサプライチェーンは発展してきた。

毒にも薬にもなるバイオ

しかし、なぜアメリカでは医薬品に注目が集まるのだろう。サプライチェーンに脆弱性を抱える物資はほかにもあるはずである。2つの理由が考えられる。

第1に、中国が生物学的脅威(biological threat)をもたらす、つまり安全保障上の脅威になるという認識である。アメリカでは2001年の炭疽菌事件以降、バイオテロへの警戒感が根強い。さらに新型コロナウイルスの発生源について、武漢ウイルス研究所から流出したのではないか、という疑念が共和党関係者を中心にくすぶり続けている。

共和党だけではない。バイデン政権は2022年10月、バイオディフェンス戦略を策定した。また同月に策定した国家安全保障戦略では「パンデミックとバイオディフェンス」をひとつの項目にまとめて指針を定めた。それは脅威が自然発生的であれ、人為的であれ、病原体を迅速に検知し、特定し、患者を隔離し、治療し、ワクチンや治療薬を開発するというプロセスは共通するからである。

さらに、いま中国はゼロコロナ政策を軌道修正し感染爆発を甘受しつつも、国境管理を緩め、国際的な人の往来を進めている。そうした中国を念頭に、1月13日の日米首脳会談後に発出された共同声明では「中国に対し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に関する十分かつ透明性の高い疫学的データおよびウイルスのゲノム配列データを報告するよう求める」との一文がはいった。

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