刃物持って大暴れも、死の直前「人格豹変」の理由 終末期における「せん妄」は9割近くが経験する

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彼はホスピスに来たときのことをまったく覚えていませんでした。前の病院でのことを尋ねると、「前に病院に入院していたとき、悪魔のようなものが私を殺しにきた。それで自分やみんなを守ろうとしていただけなんだ。本当に怖かった。あんなつらい目にはもう二度と遭いたくない」とおっしゃっていました。せん妄が患者さんを苦しめていたのです。正しい治療を行うことで患者さんは元気を取り戻し、ホスピスを退院し、自宅へ帰ることができました。

せん妄も、終末期が近づくにつれ回復が難しくなってきます。これを「終末期せん妄」といいます。終末期になり、余命が近づいてくると、さまざまな症状が出現します。痛みや呼吸困難、倦怠感、食欲低下、嘔気・嘔吐などの身体症状は多くの方が経験します。さらに、気持ちのつらさやせん妄といった精神症状も起こります。

終末期におけるせん妄は90%近くの方が経験するともいわれています。つまり終末期には誰しもが経験する精神症状です。しかも終末期せん妄は、原因が多岐にわたることに加えて、それらが悪化するため回復が困難になっていきます。

会話ができないままのお別れも

終末期せん妄となった患者さんの多くは、夜間の不眠を訴えます。これを放っておくとさらに悪化してしまい、患者さんを苦しめます。だから薬剤を使用して、睡眠を確保してもらうことが大事です。

せん妄になると、意識がぼんやりとして、きちんとした会話ができなくなります。最期はしっかりと、お別れの言葉を言ってから見送ろうと思っていても、終末期せん妄になると、患者さんからの言葉がないままのお別れになるかもしれません。

そのような最期を避けるため、ご家族には次のようにお伝えします。「終末期せん妄は、大事な方とのお別れのサインのひとつです。ご家族にとって重要な話は、患者さんの意識がはっきりとした元気なうちに話しておくことをおすすめします。また、せん妄で意識がぼんやりしているといっても、ご家族がそばにいて、手を握ってあげると、患者さんはとても安心されます。ご家族がそばにいることは、必ずわかるのです。私たち医療者は、せん妄によるつらい症状を放っておくことはしません。苦痛は必ず取れるので安心してください」

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