刃物持って大暴れも、死の直前「人格豹変」の理由 終末期における「せん妄」は9割近くが経験する

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せん妄は患者さんご本人にとっても苦しく、また終末期せん妄はしっかりとお別れができないという点で、ご家族もつらい体験であるとお話ししました。

しかし、終末期せん妄は単につらいだけではありません。むしろ、気持ちが穏やかになったり、死の恐怖が減るといったプラスの側面もあるのです。

せん妄の症状のひとつに、幻覚・幻視があります。ありえないものを見たり感じたりすることです。がん患者さんの場合、一般的に幻視が多いように思います。小人がいる、小さい虫が這っているなどです。

終末期せん妄の患者さんも同様に幻視の症状が起こりますが、そのなかで、両親などのすでに亡くなった人や、クリスチャンであればマリア様のような自分が尊敬していた人物が現れ、自分を迎えにきたとおっしゃるケースが少なくありません。

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宮城県で在宅医療をされていた岡部健先生がこのことを「お迎え体験」と名づけました。岡部先生はこの「お迎え体験」を調査し、なんと4割以上の患者さんが「お迎え」を体験したと報告しました。また、「お迎え」を体験した患者さんは在宅で亡くなった患者さんに多く、しかもその方々は、ほとんどが穏やかな最期であったそうです。

岡部先生は「お迎え体験によって、患者さんは死に対する不安感が解消され、ご家族も安心して見送れる」と述べています。

私も看取りの現場で、終末期になったがん患者さんのお迎え体験を何度も経験しています。お迎え体験は、あの世に帰る予行演習のようなものではないかと思えたりもします。夢と現実を行ったり来たりすることがせん妄だといいましたが、この世とあの世とを行ったり来たりするのが終末期せん妄かもしれません。

あの世が本当に存在するのか、人は死んだらどうなるのかについては、誰にもわかりません。人それぞれの死生観や宗教観に基づく考えがあるだけです。私自身は、医学という科学の世界で仕事をしていますが、同時にあの世の世界を信じています。

四宮 敏章 奈良県立医科大学附属病院教授、緩和ケアセンターセンター長

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しのみや としあき / Toshiaki Shinomiya

奈良県立医科大学附属病院教授、緩和ケアセンターセンター長。医学博士。京都大学農学部卒業後、製菓メーカー、製薬会社に勤務。その後、岡山大学医学部を卒業。心療内科医になる。奈良県で初めてのホスピスを立ち上げる。ホスピスで終末期医療に携わり、3000人以上の看取りを経験する。その後、奈良県立医科大学緩和ケアセンター長として、早期からの緩和ケアに携わり、遺族ケアも積極的に行う。

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